[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、この夏いちばんスイートな映画『タイピスト!』です。50年代のフランスを舞台に「タイプライター早打ち大会」の優勝を目指す女性のサクセスストーリー。世の中いろんな大会がありますが、タイプライター早打ち大会って初耳! と思ったら、実際に存在したそうです。この事実を元に、ダメダメな女子が早打ちという一芸で恋と成功を手にする物語を作り上げ、フランスで大絶賛をあびたのが本作『タイピスト!』なのです。
50年代、フランス。ローズ(デボラ・フランソワ)は、父の雑貨店の手伝いで一生を終えたくないと、秘書を目指して保険会社の面接を受けます。しかし、何もできないローズを社長のルイ(ロマン・デュリス)が追い返そうとしたところ、彼女は猛然とタイプを打ち始め、その姿を見たルイは彼女を採用することに。ローズはメモもろくに取れず、本当に役に立たないダメ秘書でしたが、ルイはある条件を出して、彼女を会社にいられるようにします。それは「タイプライターの早打ち大会に出ること」。ルイは競争が大好きなスポ根男で、ローズにタイプの猛特訓を命じるのですが……。
まず目を奪われるのは、50年代の世界を作りだした美しい色彩、そしてインテリアと衣装の数々。50年代のフランスは柔らかいデザインの時代。パステルカラーのファッションは可愛らしく、原色使いのファッションは上品に。インテリアや車は丸みを帯びたデザインで、女子ならみんなが「かわいい!」と声を上げてしまいそうなビジュアル! それらを見ているだけでも楽しい気分になります。
また「できる女」とは程遠い天然のヒロインが人差し指でタイプを打ちまくる姿はユーモラスで、それを10本指で早打ちできるようにルイが特訓するエピソードもユニーク。「タイプを早く打つ」ただそれだけのことなのに、ルイとローズは、まるで鬼コーチとダメ部員のようだし、二人の関係が恋に発展していく様も興味深いです。ただ、かわいらしさ満載の映画のわりに、二人のなまめかしいシーンがあるのにはビックリ! さすが恋の国フランスって感じ?
パソコンの時代にタイプライターに注目したのは、プロデューサーがタイプライターのドキュメンタリーで「早打ち大会」を見たのがきっかけ。大会に出場した選手にインタビューも敢行し「鋭い視線で相手を威嚇してスピードを落とさせたわ」とか「精神的なプレッシャーがハンパない」などの話を聞いて「本物の競技だ」と確信したそうです。
ちなみにヒロインを演じたベルギー女優のデボラ・フランソワは、レジス・ロワンサル監督が150人の女優をオーディションして選んだラッキーガールですが、選んだ理由は「ボーっとしていたから」。「それがローズ役に求めていた魅力。それを彼女は持っていたんだ」と監督。しかし、デボラはボーっとしている暇はなく、3カ月間タイプの猛特訓! なにしろチャンピオン大会では、1分間に500文字以上タイプするという設定ですから、ローズと同じ思いでタイプライターに向かっていたというわけです。
この映画の舞台である50年代は、女性が社会進出をしたばかりの頃。社会の役に立つためには誰にもマネできない特技が物を言う時代だったのでしょう。タイプの早打ちができれば、仕事の効率も上がりますからね。「早打ち大会」でタイピストが向上心を持って取り組めば、仕事もうまく回り、それが収益につながるし……というのは考えすぎ?でも、この映画を見て、パソコンの早打ちが得意な人は「パソコンの早打ち大会に出て実力を試したい!」と思うかもしれませんね。
(映画ライター=斎藤香)
『タイピスト!』
2013年8月17日公開
監督: レジス・ロワンサル
出演: ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、ショーン・ベンソン、 ミュウ=ミュウほか
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