【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは映画『恋する遊園地』(2021年1月15日公開)です。フランス、ベルギー、ルクセンブルグの合作映画。ヨーロッパ作品のレビューは久々です!

本作は、パリのエッフェル塔と恋に落ちて実際に結婚したアメリカ女性の実話にヒントを得たラブストーリーで、ヒロインはなんと遊園地のアトラクションに恋い焦がれてしまうのです。これがなんとも切ないお話しでありまして……。では物語からいってみましょう。

【物語】

人づきあいが苦手なジャンヌ(ノエミ・エルラン)にとって、楽しみはアトラクションのミニチュアを作ること。

そんな彼女が幼い頃から通っていた遊園地の夜勤スタッフとして働くことになりました。

そこで彼女は新しく導入された最新アトラクション「ムーブ・イット」に出会います。ダイナミックに回転する絶叫マシーンですが、夜になるとイルミネーションがカラフルに輝き、とても美しいのです。

そんな「ムーブ・イット」に心を奪われてしまったジャンヌは「ジャンボって呼んでいい?」と話しかけると、なんとジャンボはライトをピカピカさせて反応したのです。

【物に恋する気持ち】

この映画を観るまで「物に恋する気持ち」というのがいまいちわからなかったのですが、世界にはエッフェル塔、ベルリンの壁など人間じゃない建築物や物と結婚した人が現実にいるんですね。

本作のヒロインのジャンヌも物に恋する性的指向の持ち主。一般的に理解されがたい恋愛感情ではありますが、本作のジャンヌの一途な思いを見ていると「ありかも」と思えるんですよ。

彼女はモテないわけではなく、近づいてくる男性はいるのですが、心が動かない。でも遊園地のアトラクション、ジャンボといるときの彼女は弾ける笑顔で楽しそう!金属のひんやりした感触も好きみたいです。

またジャンボは、ジャンヌが声をかけると色とりどりのライトで応えてくれるんです。

これがとっても美しくてロマンチック。一方、アトラクションとしては富士急ハイランドの絶叫系みたいなワイルドな動きをするので、ジャンヌにとっては、このギャップがいいのかも?

【ジャンヌが人と恋愛できない理由】

ジャンヌが物としか恋愛できなくなった理由のひとつとして、母親との関係が描かれます。

シングルマザーとして娘を育ててきたジャンヌの母は、いつもボディラインを強調するようなセクシーなファッションで常に男がいないとダメなタイプ。

いっぽう、ジャンヌは非社交的で全く正反対。母親が男に何度も捨てられるのを見てきているので、男性との恋愛が信じられなくなったのかもしれません(性的指向なのでそういう問題じゃないかもしれませんが)。

それでもジャンヌなりに男性との関係を深める努力はするんですけどね。

母親はそんな娘が、実はアトラクションに恋していると知るや「アンタ、何やってるのよ!」みたいな展開になっちゃうんですよ。誰にも理解してもらえないって辛い……。なんだか切なくなってしまいました。

【人と違うことを認めること】

でも絶望ばかりではありません。母の恋人が実はとてもいい人で、彼女の味方をするんですよ。

「この子は変わっているかもしれないけど、それがこの子なんだ。別に誰かに迷惑かけているわけじゃないだろう」と。

そうそう、彼女が遊園地のアトラクションに恋することで困る人はいない。この映画、実は多様性を描いた映画でもあるんですね。

同じようなタイプの作品にアカデミー賞作品賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』(半魚人と女性との恋愛)があり、LGBT映画にも通じる世界でもあります。

恋愛感情を抱くのが血の通っていない物だとしても、彼女の心が動くのならばそれはあり。

人はみんな違う。それが理解しがたい違いでも、違いを認めるだけで、人々の幸福度はアップするのではないかと。そんなことを思わせてくれる映画でもありました。

コロナ禍でハリウッドの大作映画は公開延期が相次いでいますが、ヨーロッパの良作はけっこう公開しています。この作品もそのひとつ。ぜひ応援していただきたいです!

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

恋する遊園地
(2021年1月15日より新宿バルト9ほか 全国ロードショー)
監督・脚本:ゾーイ・ウィットック
出演:ノエミ・メルラン、エマニュエル・ベルコ、バスティアン・ブイヨン、サム・ルーウィック
©2019 Insolence Productions – Les Films Fauves – Kwassa Films