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9月は三連休が2回もあってヒマだなー、なんかないっすか編集長。なんてクチを滑らせた瞬間でありました。「じゃあ千葉でラーメン食べてきなよ!」との一言が。それはもしかして、あの……

「そうだね、タルコ(記者)は千葉3大・地ラーメンのうちふたつを食べてるじゃない? 残りひとつ、食べてきなよ。ラーメン代 “は” 経費で出してあげるから」

そんなわけで、やってきました千葉は房総半島の山の中。目指すは、千葉に3つある「独特なラーメン」のうち、圧倒的に行きにくいことで有名な「アリランラーメン」

■ 日本一行きにくい場所にある人気ラーメン店

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千葉県長生郡長南町に位置する、名前を「らーめん八平(はちべえ)」というこのお店。どういうふうに行きにくいかというと、

・最寄りのバス停から徒歩3分だけど、肝心のバスが土日は9時台と17時台の2本
(茂原駅発三川ゆき、上金谷で下車)→ 朝9時に着いたら帰りは夕方5時!

・最寄りのJR駅は茂原駅(約20キロ)。同駅からタクシーで30分ぐらい、運賃約5000円
→往復で1万円かかっちゃう! そのお金でフレンチのコース料理が食べられるよ!

・最寄りの鉄道駅は小湊鉄道上総鶴舞駅。タクシーなどないので徒歩、山越えの10km
→疲れないで歩いた、と仮定しても片道2時間ぐらいかかります。干からびるわ……。

とまあ、公共交通機関で行こうと思うのは大間違い、という秘境なんですね。

レンタカーを飛ばし、もうすぐ爆値上げになる予定の東京湾アクアラインを通り抜けて女一匹、行ってきました。東京方面からは、アクアライン経由で圏央道に入り市原鶴舞インターで降りる、という定石どおりの行きかたをすれば、2時間ほどで到着するものと思われます。

なお、記者は調子こいて(というか高速代ケチって)木更津から下道で行ったところ、あまりの田舎道ぶりとカーナビ&グーグルマップのニセ情報が自分の悲惨な方向感覚にベストマッチしたおかげで、お店に着く頃には日が暮れかかっていたのでした。このときの苦闘は、本稿のあとのほうで。

■ ゆったりした時間が流れる、とてつもない山奥の一軒家

「アリランラーメン」を提供しているお店は2013年現在、3店。そのうち特に人気の高い「らーめん八平」は、山深い谷、川に囲まれた静かな場所にあります。こんなところに行列のできるラーメン店があるというのも、面白い話。

記者が到着したのは夕方5時ごろ、夜6時の閉店を前にして満員! 多少あせりながら待たせてもらいます。店構えは、建物自体わりと新しめながらも土間&小上がりと長テーブルいうなつかしいスタイル。窓をすべて開け放って、半分野外のような趣も。期待がふくらみます。

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かつてはおばあちゃんがひとりでラーメンを作っていたというこのお店ですが、現在はやさしそうな孫娘さんがメイン、おばあちゃんはサブとしてふたりで切り盛りしているようです。

都会のラーメン店の殺伐としたテキパキさとは無縁、とてもいい意味でゆったりとした時間が流れています。ふたりのとっても一生懸命な姿に、先客の食器ぐらい下げるの手伝わせてもらいますぜ! なんて気にさせられてしまう。すでに、アリランマジックにかかっています。

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■ メニューと、ちょっと独特なローカルルール

「らーめん八平」のメニューは、次のとおり。

・ ラーメン 小400円/中500円/大550円
・ みそラーメン 中550円/大600円
・ チャーシュウメン 中700円/大750円
・ みそチャーシュウ 中750円/大800円
・ アリランらぁめん 中750円/大800円
・ アリランチャーシュウ 中1000円/大1050円

だけど、原則「アリラン」か「アリランチャーシュウ」をオーダーすべし!  なのです。1回に4杯前後をまとめてつくるので、全部同じ味じゃなくちゃいけない……混んでいるときに「みそ」は事実上不可能。

でも、これはふたりの女子だけ(かつてはおばあちゃんひとり)で回しているのに人気店になってしまったがゆえの、苦肉の策のようなもの。決して高飛車な根性などではありませぬ。お店のふたりとお客さんたちの間で自然に醸成された「お約束」みたいなものだと考えるのが正しそう。

また、お店のふたりからは客の順番がわからないので、自分の順番は自分で守る必要があります。「ご注文はー♪」という声が厨房からかかったら、割り込まず、割り込まれないようにちょっとだけ気をつかって注文しましょう。なお、このオーダーのときに辛さ(控えめ・ふつう・辛め)の調整をしてくれます。

■ すてきなふたりが生み出す、奇跡みたいな絶品ラーメン

記者は「アリランラーメン中」を辛めでオーダー。このとき孫娘さんはひたすらにラーメンをつくり、おばあちゃんはひたすらに野菜を下ごしらえしていく。そんな光景を見ながら待つのはまさに至福! 厨房からは常にいいかおりが! うーん、おなかがどんどんすいていくよ!!

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満員のなか、しばらくの待ち時間のあとに出てきた「アリランラーメン」。一見すると、女子にはちょっときびしいかな? と思うボリュームです。茶褐色のスープに、おおぶりの野菜がゴロゴロ。んーけどステキなルックスだ! 醤油とごま油のいい香りがまず、鼻をくすぐります。

スープを、ひとくち。……予想をめちゃめちゃいい方向に思いっきり裏切る、やわらかくも圧倒的なうまみのかたまりスープ! なんじゃあ、こりゃあああ! うますぎて箸が止まんない! 正直「田舎の素朴な野菜らーめん」だと思って油断してました……ごめんなさいいいい。うめええええ……!

チャーシューを煮た肉ダシに、かなり濃いめの醤油ダレ。まずはがっしりした動物系のうまみを感じます。これだけだと同じ千葉の「竹岡式ラーメン」に近い感じがしますが、大きな違いは「さらに野菜のうまみ&甘みがどかん! と来る」こと。大きめカットのタマネギ・にんにく・ニラから出た野菜エキスが、肉のスープと溶け合って、強烈なうまみとなって押し寄せてきます! そこにごま油と辛味のちょっとしたアクセントが! うーん、完成度高いなあ。

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麺は多少やわらかめの中太、縮れなし。自家製麺だそうで、強烈スープに負けないしっかりとした存在感があり、ラーメン1杯全体をよくまとめています。この麺だから、ちょっと多めでも難なく食べられちゃう。次回来るときは大盛りにしようかな!(乙女としていかがなものか……)

具は、しっかりと煮こまれたタマネギ・にんにく・ニラ、そしてミンチより粗めカットの豚肉……が、どっさり。ほっくり食感がうれしいにんにくは豪快なカット、「こんなに食べていいのか」という勢いでゴロゴロしているので、ひとりで食べたあと人に会うのは危険かも? と思うけど、これがやっぱりうんまいのです。

こりゃあ、行列になるのもうなずける。だってスープも麺も具も、どれもハイレベルで美味しいんだもの! 結局、「中で麺2玉」と言われる大盛りな「アリランラーメン」も、すんなりとお腹におさまってしまったのでした。ロケーション・シチュエーション・味、いずれも最高の1杯。いやー、千葉3大・地ラーメンのなかで一番好きかも……! 長旅をしたかいがあった、というものです。「とろけ具合と味付けが絶品」と名高いチャーシューを敬遠してしまった(だって量多いって……)のがひどく心残りだ!

■ 千葉3大地ラーメンめぐり・煉獄篇

さて、ここで話が終われば、ハッピーなことばかりだったのですが。

この「らーめん八平」の行きにくさときたら、車使用でもかなりのもの。ひとりでドライブする方向音痴女子にとっては罰ゲームレベルなのです。お店のある山内地区に入っていく道からして、入り口がわからなかったり。お店の広告看板なんかがあるわけではないから、ひたすらカーナビとグーグルマップ頼りに進むほかなし。それでも助手席でナビしてくれる彼氏とかがいないと、キツイです。そんなわけで次回「アリランチャーシュウ」を食べに行くとき同乗してくれる殿方を絶賛募集中!

■ カーナビがウソをつき、グーグルがあざ笑う! 何を信じればいいの!

やっとの思いで、山内という場所にたどり着きました! かなりのタイムロスをして日が暮れてしもうた、街灯なんてないからカーナビにしたがって進む! 進む! すると……ギャー!!!!

どうして!? なんで!? はたけの中に突っ込んじゃったよ!! グーグルマップでも見たけど正しい位置にいる、はずなのに、どうしてはたけ? しかも休耕地らしくヤブだよ! 虫にさされるのイヤだよ!

そう、このお店、「カーナビを信じると迷う」というナゾのオプションつきなんです! 地図データのソースが同じなのか、グーグルマップでもおなじこと。

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カーナビが、店に行くためには「大きく迂回して、細い道に入って橋をわたってね」というルートを示してくれます。

だがしかしそれが罠なのだ! この「細い道」はほとんどあぜ道、「橋」は車じゃ渡れない小さなもの! おかしいと思って「細い道」をさらに進んでいったら、道はいつしか消えてヤブの中にいるあたし! まてまてまておかしいよこれ! しかも後ろから車が来る! 2台も! 刑事ドラマの犯人かよあたしゃ!

結局3台とも、見事にドはまり。声をかけながら、ゆっくり3台みんなでバックしましたとさ。話を聞いたら、みなさんカーナビに騙されてました。この先がガケだったらみんなでオダブツだったのね!

ところでこのとき、記者はヤブの中で蚊はおろかハチにまで刺されていました。ほんとこの瞬間帰ろうかと……「ギガ○ンに移籍してやる」とか思いました。てか、ハチって冗談ヌキでマジ痛いね! 小学校ぶりだよ!

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「らーめん八平」への正しい行き方、それは「カーナビ&グーグルマップに載ってない道を行く」ことなのでした。じつは、お店の前には立派な道と駐車場があるんですね。それがどうしてか、どの地図にも載ってない……そして騙される人が続出中というわけ。なおグーグルマップの「航空写真」にはばっちり写っております。

ちなみに、カーナビのウソ情報にある「小さな橋」をわたってお店に行こうとすると、民家の庭をズカズカと通るハメになってしまいます。おそらくはおばあちゃんとお孫さんのおうちではないかと思うのですが、それでもかなり肩身が狭いというか、ふつうに不法侵入状態なので、おとなしく引き返して正面にまわりましょう。

■ 結論

房総半島で人々に愛される、おばあちゃんと孫娘のつくる絶品ラーメン。これを食べるためには、

・ 時間に余裕をもって車で向かいましょう
・ おなかをすかせておきましょう
・ いくつかのローカルルールを守りましょう
・ カーナビが信用ならないことを覚えておきましょう
・ 道を間違えるとハチに刺されるので気をつけましょう

ということが大事かもです! 

なお、もう少しだけ楽に「アリランラーメン」を味わいたい方は、千葉県長生郡長柄町の県道沿いにある「八平の食堂」(このラーメンを編み出したおやじさんが経営する、いわば本店)、そして千葉県市原市の上総牛久駅近くにある「味覚」(おやじさんの妹さんの店)もあります。

それでも圧倒的に「らーめん八平」が人気なのは、都会から離れきったロケーションで老若女子コンビがゆったりラーメンを作る、それを見ていて幸せをもらえる、というところがポイントなのだなと思った次第。

この秋、ちょっと余裕のある週末などに、この貴重なラーメンを食べに千葉の奥までお出かけしてみてはいかがでしょう。

【らーめん八平(旧店名:古市商店)】
住所:千葉県長生郡長南町山内813-2
TEL:0475-46-1167
営業時間:11:00~18:00/水曜定休

(取材・写真・文=纐纈タルコ)