Yggdrasil
もはや少年漫画という枠を超え、大ブレイクした『進撃の巨人』。最新刊となる第13巻の発売、待ち遠しいですよね! 

待っている間、「手持ちの既刊でも読み直そうかな~」と思っている方。せっかくですから、作者がインスパイアされたと言われている北欧神話に照らし合わせながら、読んでみるのはいかが? 感のいいあなたなら、今後の展開を予測することもできるかも……!? 

※コミック12巻までのネタバレがすこーし含まれますので、ご注意ください。

まずは北欧神話における、この世の成り立ちからお話しましょう。<引用「北欧神話(岩波書店)」、「北欧の世界観(東海大学出版会)」より>

【人間の先祖は巨人だった!? しかも、その名はユミル】

はるか昔、世界には地上と空の区別さえなく、すべてが混沌としていました。あるとき、火と氷が入り混じって霧ができ、そのなかからユミルという巨人が生まれました。そして、同じように霧から生まれた娘と結婚し、巨人の子どもをもうけたのです。

おっと、さっそく巨人が登場してしまいましたよ。しかも、その名は、第5巻から登場するユミル!

ユミルはアウズムラという牛の乳を飲んで、命をつないでいたのですが、この牛がなめていた氷の岩からブールという男が生まれました。巨人とは違った、美しいその姿に嫉妬したユミルは、彼を殺してしまいます。ブールの仇をうつため、その子孫たちはユミルを滅ぼし、その体から大地、空、海、山などをつくりました。そのとき、人間とその住まいであるミッドガルドもつくられ、ユミル一族の生き残りが逃れた土地は、巨人の国ヨトゥンヘイムとなりました。

ユミルに殺されてしまったブール。実は、ユミルの娘との間に子どもをもうけているのです。ということは……神々の主、オーディンを含むブールの子孫、そして彼らに創られた人間は、ユミルの子孫ってこと!?

【せこいよ、神さま!! 巨人に壁を作らせておいて、約束のものを渡さないなんてさ!】

巨人たちとの戦いは続き、オーディンたち神々は、身を守るためにアースガルドという町をつくり、そのまわりに城壁をはりめぐらせることにしました。ある男が壁の建設を申し出ると、神々はそれを受け入れます。しかし、その見返りに求められたものが高すぎると出し渋り、男をだましてタダ働きさせてしまいます。男の正体は巨人だったため、ますます彼らとの関係はこじれてしまうのでした。

出ましたよ、壁が! そして、巨人に壁をつくらせちゃった神さま。せっこいな~。現在、作品中に神さまは登場していませんが、壁をつくったといわれる壁内の特権階級の人間は、巨人とおおいに関係ありそうです

【巨人の進撃により世界は滅ぶ。そして、二千年後の君へ……!?】

悪化する巨人との関係。欲に目がくらみ、弱体化する神々。オーディンは悟ります。いつか自分たちが巨人たちに攻め滅ぼされてしまうことを。と同時に、災難の中でも正しくあろうとすれば、いつの日か平和な世界を築くことができると知り、できる限りのことをしようとするのでした。結局、神々は巨人との戦いに敗れ、世界は巨人スルトの放った火によって焼かれてしまいます。しかし、数名の神と、ひと組の人間の男女が生き残り、新しく平和な世界を築いていくことになるのです。

世界が滅びた後にやってくる、安らかな未来。これが『進撃の巨人』第1話のサブタイトルにある「二千年後」なのでしょうか? 

現在進行中の物語の前に、巨人との戦争によって滅びた世界があったとすれば、今を生きているエレンたちは幸せになれるのでしょうか? ああ、そうあってほしいけれど、あの絶望的な状況の中でどうすればいいの!? 作品中で巨人たちが欲しがっている「座標」とやらを手に入れることができれば、事態を打開できるのかもしれません。でも、「座標」って何のこと~!?

【これが座標!? 北欧神話の世界観を表すイグドラシルの木】

北欧神話世界の中心にそびえたつ巨木、イグドラシル。この木は、様々な文献で「横軸」と「縦軸」、つまり座標に例えられています。「横軸」とは、イグドラシルの3本の根がはえている、神々、人間、巨人の住む国(アースガルド、ミッドガルド、ヨトゥンヘイム)のこと。これに対し、「縦軸」は根と枝によってつながれた、地下(死者の国)、地上(ミッドガルド)、天上(アースガルド)を表しています。このように、イグドラシルの座標には、神話の世界がすべて含まれており、世界そのものとも言えるのです。

「座標」を手に入れるということは、世界の主になるだけの力を持つことを意味するのかもしれません。そうであれば、作品中の巨人たちがほしがる理由も想像できます。自分たちとさして変わらない存在である神々に、たまたまユミルが負けたことによって、裸で野原をウロウロすることになってしまった(かもしれない)彼ら。「オレたちも服が着てーよー」と言いたいのかどうかはわかりませんが、世界の主人公らしく振る舞いたいのでしょうね。

【ミカサは勇士を選ぶヴァルキリー?】

しかし、巨人たちにはかわいそうですが、どうやら「座標」はエレンの手に渡った様子(第12巻より)。記者(私)は、ミカサのエレンを好きだという気持ちがきっかけだったと思います。なぜなら、彼女がエレンを慕うのは、エレンがどんなに絶望しても、困難に立ち向かうからだと思うのです。

先に述べた、次の世代を少しでもよくするために、できる限りのことをしようとするオーディンの姿勢に通ずるものがありますよね。実は、北欧神話には、オーディンの命をうけ、世界を守る勇士(エインヘリャル)を選ぶ女性(ヴァルキリー)が登場するのです。ミカサは、そのイメージと重なるので、彼女の刺青は、ヴァルキリーである証なのかもしれません。

いかがでしょうか? 何かピンとくるものがありましたか!? 『進撃の巨人』イコール北欧神話ではないのですが、ヒントになるのは確か。神話を参考に「ああでもない、こうでもない」と予想すれば、何倍も作品が味わえますよ~。『アベンジャーズ』をはじめ、北欧神話をベースとする映画や小説、RPGは山ほどあります。ぜひ一度北欧神話の本を手にとって、これらの作品も楽しんでくださいねっ!

参考元:「北欧神話」(P.コラム作、尾崎義訳/ 岩波書店)、「北欧の世界観」(K・ハストロプ編、菅原邦城・新谷俊裕訳/ 東海大学出版会)
画像:wiki「北欧神話」より「世界樹ユグドラシル」
執筆=大井たま(c) Pouch