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人と人が関われば、多少の軋轢は生じるもの。特に、男女間においては、親しくなればなるほどケンカの回数も増えるように思います。「愛と憎しみは紙一重」というように。

ってなわけで! 様々な修羅場をくぐり抜けてきたに違いない「イケメン弁護士」さんに、男女間の問題について聞いてみるシリーズの第1回! 「口げんかですっごいムカついたとき、相手を法で裁いて、お金を請求することができるかどうか」について聞いてみました!

なお、話のキモは「名誉棄損に当たるかどうか」なので、「同性同士のケンカ」にも応用できますよー!

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相談に応じてくださったのは、東京都渋谷区円山町に「法律事務所エムグレン」を構える武蔵元(むさし はじめ)先生。身長180cm以上、小顔でくっきり二重、低めの声でありながら、威圧感のまったくないフランクな雰囲気の持ち主。

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おっとドキドキしている場合ではありません。相談室に案内されて、さっそく本題に。

■ 名誉毀損はそんなにカンタンなもんじゃない

Q:男女間の口げんかで、侮辱罪や名誉棄損に当たる場合とは?

まずは、話を民事と刑事で分ける必要がある。
民事はお金を請求する。
刑事は裁判にかけて刑罰を与える。
口げんかで裁判にかける場合なんてほとんどない。だから、今回は民事を中心に考えていくよ。

「名誉棄損」というものが成立するためにどういう条件が必要かというと、
1. 公然(不特定、または多数人が知り得る状態)に
2. 事実※を摘示して
3. 相手方の社会的評価を下げること。
これらがそろって初めて、「名誉毀損」というものにあてはまることになる。

※この場合の事実とは、「真実であること」ではなく、「評価が含まれない表現」のことをさす。例えば、「あの人は浮気性だ」と言った場合、「浮気性」は人によってそう思う基準が違う(=評価が含まれる)から事実にはならない。しかし「あの人は浮気をした」は評価が含まれないことなので事実となる。実際に浮気をしておらず虚偽であっても、事実という。

→ まとめ1:名誉棄損が成立するには、3つの条件がそろわなければいけない!

だけど、基本的に男女のケンカって部屋の中でするじゃん。部屋でのケンカは密室の場合がほとんどだから公然性は成り立たない。つまり、この場合には名誉毀損にはならない可能性が高い。

カフェとかでケンカをした場合は公然性を満たす。たとえカフェに客がいなくても、店員さんはいる。つまり、不特定の人がいるなら少数でも公然性は成り立ち、名誉毀損が成立する可能性が出てくるんだよ。

→ まとめ2:部屋でふたりきりでする口げんかは名誉毀損にならない可能性が!

■ 名誉棄損にならなくても、侮辱行為になることもある!

Q:名誉毀損の成立が無理なときは、もう口げんかで訴えるのは無理?

名誉棄損だけを考えれば、事実の摘示がないとダメだから難しい、ってことも多い。ただ、例えば「バカ」とか「アホ」とかは「事実の摘示」に当たらないから名誉棄損にならないけど、侮辱行為、つまり「人格権の侵害」になる。「お前のカーちゃん出ベソ!」と言った場合、事実でなくても親族を悪く言われたわけだから、侮辱行為に当たるよ。

→ まとめ3:客観的事実ではない罵りは名誉棄損ではなく侮辱行為になる!

■ 名誉毀損の条件「社会的評価が下がる」には例外あり!

Q:社会的評価が下がるのが当たり前の言葉で、公然の場で罵られた場合は?

「シマヅ(記者)は毎日酒飲んでて全然料理しないよな」とか言うと名誉棄損に当たるよ。シマヅ(記者)が毎日酒飲んでて料理しないのは事実だから、それを摘示したってことになるし、まわりの人に「あの人、お酒ばっか飲んでて料理もろくにしないんだ……」って思われたら社会的評価が下がるからね。

ただ、シマヅ(記者)のように、社会的評価が下がるはずの特徴で社会性を保っている場合は、名誉棄損は成立しない。社会的評価が下がるどころか、むしろ酒乱ぶりが有名になって評価が上がる可能性もある。

一応補足すると、「お前の父親は毎晩酒飲んでて仕事せずに寝るよな」と言われた場合は、他人のことを言っていても親族のことだから社会的評価は下がる。そうなると、名誉棄損は成立する。

→ まとめ4:社会的評価は言われた当人のキャラクターで下がるかどうかが決まる!

■ そもそも「口げんか」自体に落とし穴があった!

Q:3つの条件がそろっていさえすれば名誉毀損で相手を訴えられるということ?

ところが、そうもいかない。ケンカって、どちらかが一方的に言うわけではないでしょ? 「黙れペチャパイ!」って言われたら「うるさい租チ〇!」みたいな感じで、言い合いになる。言い合いになることを「言論応酬の法理」といって、結局お互いが名誉棄損行為をし合ってるわけだよ。だから、ケンカではどちらか一方だけの名誉棄損は成立しませんよってこと。

Q:じゃあ、公然性のある場で片方が名誉棄損に当たる言葉を一方的にまくし立てて、もう片方は無言で睨んでいるだけの場合は?

その場合は成り立つだろうね。

→ まとめ5:ケンカは基本的にお互いさま! だから一方の発言だけを侮辱行為と認定することはできない!

■ なんと、口げんかで最も危惧すべきモノがあった!

Q:武蔵さんは、過去に女性とケンカして名誉棄損に当たるようなことを言った経験はありますか?

ない。俺は紳士だから!!……うそうそ。あるよ。弁護士だって人間だよ(笑)。

Q:例えば、どんなケンカですか?

だいたい俺は束縛魔だからね……。「男には連絡するな!」とか言っちゃうんだよ。そうすると彼女も「あんただって女と連絡してるでしょ!」って反抗するよね。で、言い合いになる、と。

でも、さっき言ったように部屋の中でのケンカだから公然性を満たさないので名誉棄損は成立しない。……ただ、この(弁護士の)仕事していると、密室での口げんかでも「ヤバい、冷静にならないと」って思うときがあって。

Q:……え?

名誉棄損は成立しなくても、言葉の暴力……つまり口げんかでDVが成立する場合はかなりあるってこと。気をつけてね。

→ まとめ5:口げんかはDVになる可能性の方が高いので気をつけよう!

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まさかのDVオチと法律の難しさに驚く記者。ずっと目を丸くしていました。その「丸くした目」はまだまだ続きます……。

ということで、次回は「ネット上でのケンカ」について、みなさまにお伝えいたします!

企画協力:武藏 元 – 弁護士ドットコム
取材・執筆・撮影=シマヅ (c) Pouch