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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのはドキュメンタリー映画『うまれる ずっと、いっしょ。』(11月22日公開)です。この映画は2010年に公開されたドキュメンタリー『うまれる』に続く作品です。前作の『うまれる』は生命の誕生を追いかけて4組の夫婦が様々な葛藤を乗り越えて親になっていく姿を描いた作品。その『うまれる』を手掛けた豪田トモ監督が、再び今度は家族の姿を追いかけたのが『うまれる ずっと、いっしょ。』。子供から親への気持ち、親から子供への気持ち、夫と妻それぞれのお互いへの気持ちなど、家族の中での様々な気持ちが揺れ動く姿をとらえたドキュメンタリーなのです。

【物語】

血の繋がらない家族:フランダンス講師の慶祐と妻の千尋。千尋は2才になる息子を連れての再婚。息子は慶祐を本当に父だと思いながら育ちますが、いつかは本当のことを告げなくてはいけないと慶祐は悩みます……。

亡き妻が忘れられない:65才の賢蔵は愛妻を大腸ガンで亡くしてしまいます。妻のことが忘れられず、食卓にはいつも妻の写真を置いて食事をする賢蔵。しかし、娘の家族に心配をかけてはいけないと考え、自分の人生を歩むように……。

不治の障害を持つ息子との日々:松本家には、18トリソミーという染色体の障害を持って生まれた息子の虎ちゃんがいます。1歳まで生きられる可能性が10%と言われる病だったけれど、虎ちゃんは2歳に! でも突然体調を崩してしまい……。

【3組の家族が教えてくれること】

『うまれる ずっと、いっしょ。』には3組の家族が登場します。

ステップファミリーである慶祐さん一家。純粋にパパへの愛情をストレートにぶつけてくる息子、可愛くて仕方がない様子が映画から伝わるだけに、この関係を崩したくないと彼が悩む気持ちにも共感できます。しかし、この家族にグイグイ惹きつけられる一番の理由は、天然が入った慶祐さんのキャラクター! 彼は実に魅力的で、抱えているのは重い問題ですが、見る者に重荷を背負わせない軽やかさがあり「応援しているから頑張って!」と声かけたくなるんですよ。美人妻の千尋さんの穏やかな性格が彼の悩みをちゃんと包み込んでいる感じもよくて。アラサー女子など、きっと憧れる夫婦であります。

最愛の妻を亡くした賢蔵さんは、毎晩、晩酌しながら亡き妻の写真にむかって、その日の出来事を語ります。心にぽっかりあいた穴をなかなか埋めることができない賢蔵さん。奥さんへの愛がにじみ出ていて、本当に泣けます。そして賢蔵さんが思い出にひたらずに生きる決心をする、とあるアイテムには驚き。かっこいいです、賢蔵さん!とワクワクさせてくれますよ。

そして、不治の障害と闘う虎ちゃんと両親は、前作『うまれる』でも登場していました。表情豊かな虎ちゃんだけど、予断は許さない状態です。でも虎ちゃんのパパとママはできるだけ虎ちゃんに経験を積ませたいと、家に閉じ込めたりしません。毎日が虎ちゃんとパパとママの冒険みたい。1歳まで生きられるか……と言われた虎ちゃんが少しずつ成長しているのは、明るくてポジティブで社交的なご両親が生きるチャンスを与え、虎ちゃんがそれに応えているからという気がしてなりません。

【助け合い愛し合う家族】

結婚して新たに家族になると、恋愛とは別の愛情が生まれてきます。その愛情の形を見せてくれるのがこの映画です。夫婦の愛に加えて、子供ができることで愛情が増えていく。大切だからこそ、失いたくない。だから、問題があると悩み、葛藤し、乗り越えようとします。でもその乗り越える行為はひとりじゃなく、夫、妻、子供たちと一緒に乗り越えるのが家族。乗り越えるほどに愛情や絆が深くなっていくのがよくわかります。

最近は家族間の殺人や虐待など耳をふさぎたくなる事件も多いのですが、そんな重い気持ちも『うまれる ずっと、いっしょ。』を見ると晴れていきます。家族の悩みは深刻な問題でもありますが、この映画の家族たちはみんな前向き。前を向いて進んで行こうとする人々の姿には一点の曇りもありません。

おそらく家族の事で悩んでいる人はたくさんいて、家族の数だけ違う悩み事が存在するはず。同じ悩みではなくとも、みんなこうやって悲しみ、苦しみ、葛藤を繰り返して、乗り越えていくのだというのがわかれば、ちょっとは楽になると思う。自分の両親、夫、妻、子供への愛情を改めて考えるきっかけをくれるドキュメンタリーです。

執筆=斎藤香(c)Pouch
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『うまれる ずっと、いっしょ。』
2014年11月22日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
企画・監督・撮影:豪田トモ
ナレーション:樹木希林
(C)2014 Indigo Films