【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは草彅剛主演映画『台風家族』(2019年9月6日公開)です。出演者のひとりである新井浩文の事件により公開延期を余儀なくされた作品です。多くの映画ファン、草彅さん始めキャストのファンが「公開してください」と声をあげ、その熱意に応える形で公開が決まりました。

草彅さんはSMAP時代から、演技派として名前があがる俳優でしたが、本作では、演技にますます円熟味が増しています! 両親の葬式に集まった兄妹の物語。この兄妹が全員ダメ男&ダメ女なんですよ~。先が読めないおもしろさや家族の秘密があり、最後まで目が離せない作品でした。では物語から。

【物語】


台風が近づいているある日。鈴木家に長男の小鉄(草彅剛)と妻の美代子(尾野真千子)、娘のユズキ(甲田まひる)が到着。目的は10年前に銀行強盗事件を起こしたまま行方不明の両親(藤竜也・榊原るみ)の葬式に参列するため……と言っても、遺体はないので葬式は形だけ。兄妹で財産分与するのが真の目的でした。長女の麗奈(MEGUMI)、続いて次男もやってきたけど、三男の千尋(中村倫也)はまだ来ない。ところが葬儀を終えたあとに兄妹ケンカが勃発。これまで溜めてきた本音と不満をバクハツさせているうちに、両親が銀行強盗した理由も明らかになっていくのです。

【本当に台風のような家族騒動!】

ひと言でいえば家族と夫婦の物語なのですが、前半は鈴木家の仲の悪さとゲスっぷりがこれでもかと描かれます。表向きは、両親が遺した財産をちゃんと分配すると話をする小鉄でしたが、本音は独り占めしたいのがバレて逆ギレ!

葬儀屋を営んでいた父親を助けて来たのは俺じゃないか!と主張する小鉄。一つ本音が出ると次々と言いたいけど言わなかったことを言い合う兄妹たちは、それぞれ自分の言い分、自分の正義を振りかざしますが、小鉄の娘に「みんな自分のことしか考えてないじゃない!」と一喝され、ぐうの音も出ないという……情けない大人たちなんですよ。

【グラデーションのように色合いを変えていく草彅剛の演技】

家族間で吹き荒れる兄妹たちの強欲っぷりの中、小鉄は父との関係性を振り返っていきます。そこから草彅さんの演技がゲスな男から、少しずつ体温が上昇するようにぬくもりが見え来るのです。父親とぶつかりあった日々、何をやっても長続きしない自分への苛立ちがフラッシュバックし、過去と対峙するのです。そんな小鉄を見守る妻もいいんですよね。彼女は何があっても小鉄の味方。一心同体のような夫婦関係が見えてきて、微笑ましいくらいです。

【両親の秘密が明らかになったときの大感動!】

そしてある訪問者がきっかけで両親が銀行強盗をしなくてはいけなかった理由が明らかになるのですが、このエピソードがまた泣ける……。子供たちが自立したあと、二人で肩寄せ合って生きて来た老夫婦に起こった出来事は、映画の中だけのフィクションと片付けられない社会問題もはらんでいますが、親の秘密がバラバラだった兄妹をまた一つの家族へと繋げていくという展開がいい! 胸がいっぱいになりました。

「台風家族」は9月6日~26日までの3週間限定公開ですが、ぜひぜひ見てください。「お蔵入りにならなくてよかった」「観てよかった!」と思える作品でしたよ!

執筆=斎藤 香(C)Pouch

台風家族
(2019年9月6日~26日、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー)
監督・脚本:市井昌秀
出演:草彅 剛、MEGUMI、中村倫也、尾野真千子、若葉竜也、甲田まひる、長内映里香、相島一之、斉藤暁、榊原るみ、藤竜也

▼予告編

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