
[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、ドキュメンタリー『バベルの学校』(2015年1月31日公開)。この映画に登場するのは、さまざまな事情を抱えてフランスにやってきた24人、20ケ国に子供たちです。
彼らは同じ学校の同じクラスで学びますが、なぜフランスヘ? これからどうする?まだ十代の子供たちの目に映る現実をフランスの女性教師が導き出した作品です。
【物語】
アイルランド、セネガル、ブラジル、モロッコ、中国など20ケ国の子供たちが集まる適応クラス。それぞれが様々な事情を抱えて、フランスにやってきました。でも学業に専念したくても言葉の壁が立ちふさがります。フランス語を習得しつつ、勉強をするのが適応クラスなのです。ブリジット・セルヴォニ先生は、ひとりひとりの背景、個性を見つつ、慎重かつ温かく対応していきます。そして、世界各地からやってきた子供たちは、力を合わせて短編映画を作り、その作業を通してお互いを知り、友情を育んでいくのです。
【本物の異文化コミュニケーション!】
英会話スクールのキャッチコピーみたいですが、ジュリー・ベルトゥチェリ監督がこの映画を撮ろうと思ったきっかけは異文化コミュニケーションなのです。
「子供たちが参加する短編映画コンテストに関わっていたことからセルヴォニ先生と出会いました。20カ国の子供たちのクラスだと聞いて、異文化が混ざり合うことの豊かさを感じられるのではないかと。近年ヨーロッパでも人種差別の傾向が強くなっています。だから、子供たち、ひとりひとりの個性や価値を見出す映画を作りたいと思ったのです」
この映画に登場する子供たち、適応クラスにいることですでに差別的な目で見られることもあったようです。ある生徒が語っていました。「普通クラスの子が変な目で見る」と。それこそ差別なわけです。でもセルヴォニ先生はすべての子供に公平です。平等を維持するのはわかっていても難しい。しかし、それを実現しているのがセルヴォニ先生なのです。
【自己表現が明日に繋がる】
フランスには多くの移民が暮らしています。ゆえに差別や衝突もあるでしょう。あの風刺画事件もそのひとつだと言えそうです。
「フランスには年間3~4万人の移民の子供たちがやってきます。フランス語を話せない子供たちの為にフランス全土に適応クラスは存在しています。みんな親の事情でやって来たり、政治的、経済的な理由で来たりする子も多いのです。私はそういう子たちに自分たちが経てきた困難を表現する機会を与えます。話すことで自分だけが苦しんでいるわけじゃないことを知ってほしいのです」
と、セルヴォニ先生。
子供たちが自分の生い立ちを語ったり、苦しみを語ったりすることで、心と心が繋がっていくのがわかります。友達の話を聞きながら涙したり、抱きしめたり……。適応クラスには普通クラスとは違った友情が存在しそうです。それも、ものすごく深い友情が。
【闘いながら生きる家族】
そしてセルヴォニ先生の親子面談で明らかにされる子供たちの生きる背景。女の子の中には、生理がきたら親の決めた相手と結婚しなくてはいけない地域もありました。だから親戚が彼女を逃がしたと……。自閉症の男の子、親と10年以上会っていないという女の子……。まだ十代なのに壮絶な人生を背負っている子もいるのです。そしてその家族もまた生きるために必死であることもわかります。
でもみんながこのクラスでお互いに心を開き、人生の喜びを分かち合っている姿はすがすがしく可愛いです。それを導いたのがセルヴォニ先生。いや~素晴らしく良い先生! 記者もセルヴォニ先生から学びたくなりましたよ。子供だけでなく大人の相談にも対応できそうな器の大きさにしびれます!
【移民問題に一石を投じる作品】
『バベルの学校』は、移民間それぞれの文化を認め、お互いへの理解を深めることができることを証明しています。
「最近のフランスメディアは、問題が起こるとすぐ移民を取り上げて報道するような気がします。移民問題はそんなにしょっちゅう起こっているわけではない。子供たちにしっかりを教育を受けさせれば、違う文化の国ともわかりあえずし、他国でも社会に出てしっかり生きていくことができる。そのことをこの映画は示していると思います」
と、ベルトゥチェリ監督。憎しみ合ったり傷つけあったりすることからは悲しみ以外の何も生まれませんからね。これは子供だけの問題じゃない。『バベルの学校』しみじみと考えさせてくれる映画です。
執筆=斎藤 香(C)Pouch
『バベルの学校』
2015年1月31日より、新宿武蔵野館、渋谷アップリンクほか全国順次ロードショー
監督: ジュリー・ベルトゥチェリ
(C)Pyramide Films






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