
[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』でアカデミー賞主演女優賞を得たマリオン・コティヤール主演のベルギー、イタリア、フランス合作映画『サンドラの週末』(2015年5月23日公開)です。
体調不良で休職していたヒロインが職場に復帰した途端、解雇! しかし、その逆境に立ち向かっていく様を描いています。社会派であり、人と人との繋がりを軸に人間性を問う映画になっているのです。
【物語】
サンドラ(マリオン・コティヤール)は夫と二人の子供と暮らしています。体調不良で職場を休んでいた彼女。やっと復職できるようになったと思ったら、解雇を言い渡されてしまいます。彼女がいなくても仕事はできたし、ひとり解雇すれば社員にボーナスが出すことができるというのがその理由。
しかし、サンドラはマイホームを手に入れたばかりで仕事をしないと生活できません。同僚に支えられ会社と交渉したところ、サンドラの解雇に反対するか、ボーナスを得るかを投票で決めると言われ、16名のうち解雇反対が過半数になれば仕事は続けていいと言われます。サンドラは週末、「ボーナスを諦めて自分を選んでほしい」と社員の家をまわることに……。
【すべての人の気持ちに共感できる映画】
ジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ監督はこれまでも、息子を殺された父親と犯人の少年との交流を描いた『息子のまなざし』や若いカップルが子供を産んでからの運命を描いた『ある子供』など、今の社会の中で厳しい局面を迎えた人々の生を描いてきました。
『サンドラの週末』も然り。「あなたがいなくても困らないから」と解雇された女性の闘いを描いています。こんな理由で解雇されたら愕然としてしまいますし「そんな会社、こっちからやめてやる!」と言いたくもなりますが、新しい仕事が得られない環境にいたら、すがりつく気持ちもわかります。
記者は試写を見るまで、ヒロインが職場と闘う映画『ノーマ・レイ』(組合結成)『スタンドアップ』(セクハラ訴訟)のような映画を想像していたけれど、『サンドラの週末』はまったく違いました。この映画は権力相手の勝ち負け映画ではありません。この映画の素晴らしいところは、すべての登場人物にどこか共感できることです。
サンドラかボーナス、どちらを選ぶかの選択でボーナスを選んだ人に対して決して悪い感情を抱くようには描いていません。サンドラ自身もそう語っていますが、お金を選ぶ人の気持ちもわかるんですよ。
また会社も社員にボーナスを出すために一人を犠牲にせざるをえない厳しい状況なわけです。ボーナスカットする会社だって多いのですから、ブラックな職場というわけではないようです(とはいえ、突然解雇はやり方としてはいただけないけど)。
【働きのない人への応援歌】
ジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ監督は、この映画が生まれた背景にはヨーロッパの経済的、社会的な危機が大きく影響していると語ります。
リュック監督曰く
「数年前から、同僚たちの多数決で解雇されそうになる人物についての映画を考えていました。逆境にあって団結する夫婦を思いついたときに、この映画は生まれたのです」
そして、ジャン=ピエール監督は
「重要だったのは“弱いから”“十分な働きがないから”と誰かが排除されることを示すことでした。この映画はそんな働きのない人への応援歌です。彼女は夫と闘うことで、勇気と力を取り戻すのです」
と語っています。
自分は役立たずだ、必要のない人間だと思うことは辛い。けれど「そうではない」ことを証明するには、自分から立ち上がり、アピールしないと前には進まないのです。それでも同僚に「ボーナスを諦めて自分を選んで」というのは、しんどいことですよ。「自分だったら」と考えてみてください。「できない……」と思う人は多いのでは?
記者も崖っぷちだったらできるかもしれないけど「でも……」と心グラグラ揺れてしまいました。また選ぶ立場になっても、お金を選んだら後ろめたい気持ちを一生背負わなければならないかもしれません。
『サンドラの週末』は、社会の厳しさを描きつつ、同時に人間ひとりじゃ生きられないこと、人との繋がりの中で生は営まれることが描かれています。サンドラも応援してくれる同僚や夫の支えがなかったら、どうなっていたかわかりませんからね。
見終ったあと誰かと話したくなるし、自分だったら……と考えずにいられない作品です。
執筆=斎藤香(c)Pouch
『サンドラの週末』
2015年5月23日より、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:マリオン・コティヤール、ファブリツィオ・ロンジョーネ、クリステル・コルニル、オリヴィエ・グルメ、カトリーヌ・サレほか
(C)Les Films du Fleuve – Archipel 35 – Bim Distribuzione – Eyeworks – RTBF(Televisions, belge) – France 2 Cinema




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