【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、第92回アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞という主要5部門にノミネートされたフランス映画『落下の解剖学』(2024年2月23日公開)です。ミステリー映画というより、人間ドラマというか夫婦の物語とも言える作品です。見応え大ありでした!

では、物語から。

【物語】

雪山の山荘で男性が転落して死亡。発見者は視覚障害のある少年・ダニエル(ミロ・マシャド・グラネールさん)。亡くなった男性は発見したダニエルの父・サミュエル(サミュエル・タイスさん)でした。死因は事故、あるいは第三者の殴打による頭部の外傷。事故か、自殺か、他殺か……。

容疑をかけられたのは、自宅にいたサミュエルの妻・サンドラ(ザンドラ・ヒュラーさん)。彼女は友人の弁護士(スワン・アルローさん)に弁護を依頼し、サミュエルの死は裁判にかけられることになるのですが……。

【ミステリーから夫婦ドラマへ】

結論から言うと、最初から最後まで目を離せない作品でした!

冒頭、ベストセラー作家であるサンドラは学生の取材を受けているのですが、サミュエルが大音量で音楽をかけて作業をしており、うるさくて取材どころではない、と別日に行うことを決めます。そのあと、犬の散歩に行っていた息子が死体を発見するのです。

取材に来た学生が帰ったあと、自分が昼寝している間に起こった出来事だとサンドラは主張するも、アリバイはなく、現場の状況などから、彼女は容疑者になり裁判にかけられることに。そして、うまくいっていると思われていた夫婦の間に亀裂が入っていたことがわかるのです。その夫婦の亀裂こそがこの映画の核だと思いました。

【法廷で流れる会話の衝撃度】

なぜ夫婦仲が悪いとわかったか……。それはサミュエルのUSBに夫婦の会話が録音されていたからです。その音声が法廷で流れるシーンがすごかった!

ネタバレになるので詳しくは映画で観てほしいのですが、人気作家であるサンドラと、教師をしながら作家を目指すサミュエルの本音がぶつかり合っているのです。どっちが悪いわけではない。でも、妻は人気作家で社会的に認められていることに自信があるだけに上から物を言ってくる。それに対してサミュエルは自分の正論を一生懸命言っているのです……。

この夫婦の会話のシーンの緊張感! 法廷内がピーンと張り詰めた空気の中、サンドラとサミュエルの会話が響き渡る……、その後も壮絶な夫婦の言い合いシーンがあるのですが、本音をぶちまける場面は本作のハイライトだと思います。いまだ脳裏に二人のエキサイトしていく会話がリフレインして離れない〜。

【この事件の真相は?】

いろいろと隠していることがあるサンドラは、無実から「なんだか怪しい」と思わずにいられなくなる展開が実に巧妙。観客の心も揺さぶる脚本と演出は素晴らしいです。裁判では彼女の真実が暴露されると同時に夫の真実、そして息子の証言と法廷は白熱していくのです!

悪い人がいるわけではない。みんな自分を精一杯生きている。

けれど、時を積み重ねていくうちに、それぞれの立場が変われば、見方も変わり、夫婦に求めるものも変わっていく。ひとりの人間の死から見えてくるものは大きい。人生の重みを感じました。

でも私はサンドラのことそんなに好きになれなかった。夫への愛が冷めていたのかわからないけど、夫を亡くしたのに彼女に喪失感がなく、平気なのかな、と思ったりしたので。

映画をじっくり楽しみたい人におすすめ。見終わったあと、いろいろ語りたくなる映画です。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

落下の解剖学
(2024年2月23日より全国ロードショー)
監督:ジュスティーヌ・トリエ
脚本:ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ