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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのはティム・バートン監督の最新作『ビッグ・アイズ』(2015年1月23日公開)です。実際にあった事件をベースにした芸術家夫婦の物語なのですが「これって佐村河内事件?」と誰もが思ってしまうはず。なぜなら妻が夫のゴースト・ペインターをやっていたのですから。なぜそのようなことになったのか、なぜ彼女は受け入れてしまったのか……。そんな芸術家夫婦のいびつな関係にスポットライトをあてた作品なのです。

【物語】

夫と別れて娘と家を出たマーガレット(エイミー・アダムス)は、絵で生計を立てようとサンフランシスコのビーチで似顔絵を描いていました。そこで出会ったのは美術を勉強しているウォルター(クリストフ・ヴァルツ)。マーガレットはウォルターと再婚します。ウォルターは自分とマーガレットの絵を必死に売り込んでしましたが、ある日ひょんなきっかけでマーガレットの絵が注目をあびます。しかし、作者として脚光をあびたのはウォルター。彼は自分の絵だと嘘をついたのです。マーガレットは言い返せないまま、夫のゴーストとして絵を描き続けますが……。

【夫婦内で佐村河内事件?】

2014年に世間をにぎわせた佐村河内守のゴーストライター事件。同じようなことを夫婦でやったのが、映画『ビッグ・アイズ』のウォルター・キーンとマーガレット・キーンです。

「ビッグ・アイズ」と呼ばれたマーガレットの絵は爆発的に売れて、裕福な生活ができるようになりますが、名声はすべてウォルターのもの。本当のことを誰にも言えずにアトリエにこもって絵を描く日々は辛かったでしょう。映画前半は絵が売れて生活が一変するウォルター夫妻、後半はマーガレットが真実を語り、夫と裁判で争う様が描かれます。

それにしても妻の絵を自分の作品として発表して脚光をあびるなんて、画家としてのプライドはないのか……と怒りが沸きますが、真相がわかると「ナルホドね」と。最初から嘘つき男だったのです。しかし、こんな男にもティム・バートン監督は優しい。この最低男のことを、生きる世界を間違えたのだと描いています。いけ好かない男ですが、確かにそうかもしれないと思わせる力がウォルターにはあるのです。

【マーガレットの大ファンだったバートン監督】

肖像画を依頼するほどマーガレット・キーンのファンだったティム・バートンがこの映画を監督することになったのは当然のなりゆきしょう。この映画の脚本家のひとりスコット・アレクサンダーは

「ティムはマーガレットの絵を愛している。アウトサイダー・アートの概念に共感していて、批評家の評価だけが正当化されることに納得していない。それこそがこの映画のテーマとも言える」

と語っています。「ティム・バートン展」で来日したときバートン監督は、

「幼い頃から親しんできた絵です。当時はどこにいってもこの絵がありました」

と語っていました。大衆文化の中に初めて出現した親しみやすいアートがマーガレット・キーンの絵。それだけ多くの人に愛された絵だっただけに、この事件は当時衝撃的だったでしょう。

【マーガレットはウォルターに感謝している?】

この映画の舞台である1950年代、主婦は夫にすべて従うのが典型的な姿だったようです。マーガレットも然り。加えて内気で自己主張が苦手だったゆえに、社交的で口が巧いウォルターに言いくるめられたのです。マーガレットは真実を明かして裁判になりますが、「ビッグ・アイズ」が有名になったのはウォルターのおかげだとも語っています。

「彼がいなかったら自分の作品は誰にも発見されなかったはずよ」

彼のやったことは画家として許せないけれど、自分の絵を世に出す原動力になったのはウォルターの強力な野心。これもまた真実なのです。

アート界のスキャンダラスな事件を描いた映画とも言えるし、ひとつの夫婦の崩壊を描いた映画ともいえる『ビッグ・アイズ』。やはり夫婦は信頼関係が崩れるとダメですね。誠実な人ほどお金では繋ぎ止めらない。それをマーガレット・キーンが身を持って教えてくれる映画とも言えるでしょう。

執筆=斎藤香(c)Pouch
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『ビッグ・アイズ』
2015年1月23日より、TOHOシネマズ有楽座、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
監督:ティム・バートン 
出演:エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、ジョン・ポリト、クリステン・リッター、ジェイソン・シュワルツマン、テレンス・スタンプ
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