【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、矢口史靖監督の最新作『ダンスウィズミー』(2019年8月16日公開)です。『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』などの矢口監督の最新作として話題の作品。音楽が聞こえると踊りだしてしまう催眠術にかかったヒロインの映画と聞いて、「見たことのない世界が展開するのかな?」と、ワクワクしながら鑑賞しました。

【物語】

OLの鈴木静香(三吉彩花)は、ある日、遊園地で催眠術師マーチン上田(宝田明)に出会い、催眠術をかけられます。そのときから、音楽が流れると自然と歌って踊ってしまうカラダになってしまい、会社の会議やデート中のレストランで大騒動!

元の自分に戻りたい彼女は、催眠術師のサクラだった千絵(やしろ優)とともに、探偵の渡辺(ムロツヨシ)に調査を依頼。遊園地から消えたマーチン上田を探すことになるのですが……。

【矢口監督がミュージカル映画に挑戦!】

本作は矢口監督自身の「ミュージカル映画は、なぜ突然歌ったり踊ったりするの?おかしいでしょ」という疑問からスタートしました。外国映画なら、人種も言葉も違うため、非日常感のままミュージカルを楽しむことができるけど、日本映画は見たことのある景色の中、同じ日本人が歌ったり踊ったりするゆえの「恥ずかしさ」を感じてしまうというわけです。

監督曰く「だから、ひとつの物語をミュージカルとして描くのではなく、ミュージカルでないと描けない物語として作らないと意味がない」と、自ら縛りを作って映画化にトライ! その監督の思いがつまっているのがヒロインの静香。「普通の人が突然歌って踊りだすのは変!」という監督自身の考えをそのまま体現したヒロインだから、彼女が歌ったり踊ったりしたあとの場はメチャクチャになり、周りから白い目で見られたりするのです。

【日本でミュージカル映画をやるのは難しい!?】

音楽は山本リンダの「狙いうち」など歌謡曲がメイン。「なんで昭和の歌謡曲が中心なのかな」と思ったりしましたが、もしかして催眠術師のマーチン上田が昭和テイストたっぷりなご年配だから、その世界観を貫いたのかもしれません。でも音楽はどんな年代のものでもいいものはいいですね! やっぱりワクワクするし、映画を観終わったあと、カラオケへ行きたくなりましたよ。

ただ、ミュージカル映画は近年ヒット作の多いジャンル。『グレイテスト・ショーマン』『ラ・ラ・ランド』、最近では『アラジン』が日本でも大ヒットしました。だから、日本の観客のミュージカル映画に対するハードルはめちゃくちゃ高いと思うんです。静香役の三吉彩花さんの一生懸命さはビシビシ伝わってきたのですが、すみません、個人的には「ミュージカル映画を観た!」というカタルシスはあまり感じられませんでした。本作は、意外とザ・ミュージカルなシーンは少なくて、中盤から催眠術師を探すロードムービーに変わっていくのです。

【女子旅珍道中が意外にも楽しかった!】

静香と千絵が催眠術師を探すという旅に、途中からワケアリの女・洋子(chay)が仲間入り。女の友情が描かれたり、マーチン上田を追いかけまくったり、後半は、矢口監督作らしいコメディ展開になっていきます。個人的にはchayが登場してからの女子旅珍道中が楽しかったです。ミュージカルという本筋から脱線していたかもしれないけど、女子たちのワチャワチャ感が良かった!

【催眠術スイッチにハマれば一気に楽しめるはず】

自分を出せないOLが、催眠術をきっかけに音楽を通して自分を解放していき、成長する姿を描くというのが本作の核だと思うのですが、ミュージカルとヒロインの心の変化が、私の中ではなかなか繋がらず……。どちらかと言えば、千絵や洋子の存在やマーチン上田を探す旅の中で彼女は何かをつかんだような気がしました。

それは最初から「催眠術により、音楽を聞くと歌って踊りだすようになる」という設定に私が乗れなかったせいもあるかも。その設定に最初から乗れれば、最後まで一気に楽しめると思います!

執筆:斎藤 香(c)Pouch

ダンスウィズミー
(2019年8月16日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:矢口史靖
出演:三吉彩花、やしろ優、chay、三浦貴大、ムロツヨシ、宝田明ほか

(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会