[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、2011年に27歳の若さでこの世を去った歌手エイミー・ワインハウスの人生を映し出したアカデミー賞・長編ドキュメンタリー賞受賞作『AMY エイミー』(2016年7月19日公開)です。
エイミー・ワインハウスの劇的な人生に内側から斬りこんでおり、彼女を昔からよく知る人々へのインタビューやプライベート映像を元に、エイミーという人物を丁寧に綴っています。
音楽ファンなら、その実力をご存じだと思いますが、記者(私)は勉強不足で彼女に対してゴシップクイーンのイメージしかありませんでした。
ゆえに、このドキュメンタリーで初めてエイミー・ワインハウスの人となりや、ソングライティング、なぜ若くして命を落とすことになったのかを知ったのですが、何よりビックリしたのがその歌声。そして、彼女の生き様そのものであるような詞や曲の数々。凄い才能じゃないか! と圧倒されました。ではエイミーの人生を見ていきましょう!
【内容】
1983年にタクシー運転手と薬剤師の母の間に生まれたエイミー・ワインハウスは、9歳で父親の浮気により両親が離れ離れになることを経験します。しかし、彼女は幼い頃からジャズに囲まれて暮らし、演劇学校で知り合った友人を通して歌手への一歩を踏み出すのです。
デビューした彼女は、その歌唱力ですぐに業界に認められる存在に。デビューシングルとアルバム『フランク(Frank)』は好評で、デビュー曲『Stronger Than Me』では最優秀コンテンポラリー・ソング賞を受賞しましたが、失恋したり、アルコール依存症になるなどのトラブルによって、なかなかセカンドアルバムに着手できません。
やがて数々の辛い日々を乗り越えて、ニューヨークでマーク・ロンソンとレコーディングをスタート。セカンドアルバム『バック・トゥ・ブラック(Back To Black)』が発売され、収録曲でもあるシングル『リハブ(Rehab)』と共に、世界的な大ヒット作品となります。
しかし、元彼とよりを戻した彼女は結婚し、夫のすすめで始めたドラッグに落ちていくのです……。
【歌に込められたエイミー・ワインハウスという存在】
この映画には、彼女の歌声をたくさん聴くことができるし、エイミーの作詞の過程を知ることもできます。彼女の声と詞とメロディーはひとつの完成された作品であり、胸に突き刺さります。彼女の心の叫びが楽曲に内包されていて、それが歌唱によって世界中に羽ばたいていたのですねえ。その歌の世界に多くの人が共感し、感動したのもわかります!
彼女の歌はそのときの心の内を歌っているものも多く、常に愛を求めており、歌だけでなくご本人も恋愛依存症のように見えました。恋人ができると、そのそばを離れないエイミー、何でも彼の言うなりのエイミー。正直、自立した女性には見えません。でもそれは、幼い時に両親が別れ、愛情を存分に与えられていなかった不安がいまだ根強いのかなとも感じられました。
また、男を見る目もなかったですね。特に結婚相手の彼は「人としてどうなんだろう?」って感じでしたから。
【エイミー・ワインハウスはなぜ死んだのか】
『アイルトン・セナ ~音速の彼方へ』を手掛けたアシフ・カパディア監督は、エイミー・ワインハウスの映画を依頼され、即座にOKしたそうです。
「彼女はどうして27歳で死んでしまわないといけなかったのか。何かがエイミー・ワインハウスの身に起こった。それが私たちの目の前でどのように起こったのかを知りたいと思ったのだ」
確かにそれはファンの誰もが知りたかったこと。
そして監督はこうも語っています。
「彼女の人生を理解してから歌詞を見ると、その内容はそれまで思っていたものよりももっと深く訴えかけてくる。私たちがやるべきことは、歌詞を解明することだった。エイミーの作りだす音楽、そのすべてが彼女そのものだった」
映画を見ればわかるのですが、彼女は有名になるにしたがってパパラッチに追い駆けられ、アルコールやドラッグに逃げていきます。それは、彼女から歌を作りだす時間やチャンスを奪っていくのです。
セレブが追いかけられるのは有名税だと言いますが、物には限度があります。歌が好きで歌手になった女の子は、生命線である歌を奪われていくような、羽根をもぎ取られていくような、そんな風にさえ見えるのです。
【エイミーのじれったい人生】
しかし、パパラッチに追い駆けられるのはエイミーに限ったことでなく、多くのセレブが容赦なくカメラを向けられています。
けれども、エイミーには優秀なスタッフがいなかったように見受けられます。
父親でさえ娘の名声を利用しようとしますから。彼女の素晴らしい才能を守れる人がいたら……と見ていてじれったくなりました。誰か守ってあげられなかったのか? と怒りさえ沸いてきたりして。
エイミー・ワインハウスに興味がなかった人も、グイッと引きつける魅力があふれるドキュメンタリー映画『AMY エイミー』。エイミーはこの世を去ったけれど、彼女の音楽は永遠であり、彼女の存在はこの映画の中で永遠に生き続けるでしょう。
取材・執筆=斎藤 香 (C) Pouch
『AMY エイミー』
(2016年7月16日より、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー)
監督:アシフ・カパディア
出演:エイミー・ワインハウス、ミッチ・ワインハウス、マーク・ロンソンほか
(C)Rex Features, (C)Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky, (C)Winehouse family, (C)Juliette Ashby
▼映画「AMY エイミー」予告編
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