[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品の監督を直撃インタビューします。
今回、直撃インタビューしてきたのは、映画『小さな園の大きな奇跡』(2016年11月5日公開)のエイドリアン・クワン監督です。
いま日本でも保育園問題、経済格差による子供の学力など問題視されていますが、香港でも似たようなことが起こっているようです。閉鎖されそうになっていた幼稚園を救ったルイ先生を描いたこの作品は、実話。香港で2015年の年間興収ナンバー1になった作品です。
そこで、この映画を演出したエイドリアン・クワン監督にお話を伺ってきました。まずは物語からご紹介しましょう。
【物語】
香港の有名幼稚園で園長をしているルイ(ミリアム・ヨン)は、エリート教育に疲れて退職。夫と世界一周の旅に出ようと約束していた矢先、閉園の危機にさらされている幼稚園があるという報道を見ます。そこでは園長先生を募集していますが、給料が安いため、なり手がいないのです。
彼女はその幼稚園を救いたいという思いを抱き、夫に期間限定で引き受けることと約束をして、園長先生になります。彼女は、この幼稚園を立て直すことができるのでしょうか。
【インタビュー中に感動して涙する監督】
エイドリアン・クワン監督はとてもやさしいまなざしの監督で、お会いしてすぐに心がほっこり癒されました。涙もろい方らしく取材のたびに泣いているそう!
取材には脚本を担当したハンナ・チャンさんも同席。まずは、この実話の映画化の経緯から聞きました。
――クワン監督は、ルイ先生に会ってお話しを聞いたとき、この実話を映画化しようと決心されたそうですが、どこに心惹かれましたか?
クワン「私が会いにいったときは、10名の園児の卒園式の日で、ルイ先生は忙しそうにしていました。園児は恵まれない境遇で育った子もおり、中国だけでなく西洋人の園児もいました。私がまず驚いたのは、園児たちのお行儀の良さです。地方の幼稚園なので、活発な子供が多いと思っていたのですが、国際的な幼稚園にも負けないほどマナーがしっかりしていました。卒園式が終わってからルイ先生とお話しできたのですが、そのとき2009年にたったひとりの卒園式があったと聞きまして、その話をぜひ映画化したいと思ったのです」
――この映画はルイ先生と子供たちがとても仲よく、その姿を見ているだけでなごみますが、先生と子供たちの絆を結ばせることについて、どのような演出を心がけたのでしょう。
クワン「信頼を築くことより、スタッフとキャストが共鳴し合うことが大切だと思いました。この映画についてひとつのヴィジョンを共有し、気持ちをシンクロさせて情熱を高めることが重要だと。撮影前に子供たちには“勇気や希望が持てる映画を作ろうよ”と話しました。誇りを持てる映画のプロジェクトの仲間になりませんかと……」
いきなり目をウルウルさせて語るクワン監督。「もう泣く?」と驚きつつも、クワン監督のウルウル目を見て、こっちももらい泣きしそう……。
【子役を監督のミッションに巻き込んで成功!】
――子供の演出はとても大変だと聞きますが、この映画では成功していますね。
クワン「脚本家のハンナ・チャンに感謝です。子供の演出に悩んでいたとき、私は彼女に相談しました。ハンナは脚本家でもあり、心理カウンセラーでもあるのです。彼女は彼らに演技を教えるのではなく、自分のミッションに参加してもらう、巻き込んでしまうような形に持っていけばいいのではないかと教えてくれました」
ハンナ「400名から選ばれた5名の子供たちですから、良い子ばかりです。彼らには、この幼稚園に光を取り戻させることが大切なんだと伝えました。私たちの気持ちと彼らの気持ちをシンクロさせて目標を共有できたことで、子供たちは私たちの仲間になったのです、まごころをもって接すれば必ず通じます」
【古い物、形のない物の大切さを訴える】
――ヒロインの夫が博物館で働いている、古い幼稚園を守るなど、この映画は古い物や、そこに宿る形のない物を大切にしていますね。
クワン「この映画のテーマは “基本に帰ろう” ということです。ヒロインのルイ先生はエリート幼稚園から、古く閉鎖しそうな幼稚園に来て、初心に帰ったのです。最近は人と人との付き合いもメールばかりで会って対話することが減っています。基本に立ち返って、伝え合おうよと私は言いたい。見返りを求めないで子供を愛することも同じです。ルイ先生は見返りを求めず、5名の園児の面倒をみることで、エリート幼稚園で満たされなかった気持ちを満たしていったのです」
――香港ではエリートを育てる幼稚園の方が人気なんですね。
ハンナ「香港では幼稚園は有料で、小学校から高校までが無料です。だから親たちはよりよい幼稚園に入れようとします。でも貧しい家はそんな幼稚園には入れない。でもルイ先生の幼稚園は無料で、貧しい家の子供たちの受け皿なんです。だからこそ、この園を取り仕切っている理事長は第二次世界大戦後にボランティアで始めたこの幼稚園を残したいのですよ。けれどもお金がないから厳しいと言う現実に直面していたのです。香港は競争社会で拝金主義ですが、この映画によって、みんな子供のために何をすべきか、基本的なことを思い出したと思います」
【死ぬまで映画を撮り続け、メッセージを発信していきたい】
――ルイ先生はこの映画をご覧になって、どんな感想をもたれていましたか?
クワン「彼女はいろんなことを思い出して泣いていました。泣き続けて涙が止まらない状況でしたよ(笑)」
――この映画には監督のお話されたメッセージがこめられていますが、今後もメッセージ性の強い映画を作っていきたいですか?
クワン「母が癌で倒れたとき、友人がくれたキリスト教信仰のビデオを母と一緒に見たのです。それは映像作品として実に劣悪なシロモノで、照明もインタビューも編集も最悪。内容は困難を克服した人の良いお話でしたが、私はこんなもの見ても時間の無駄だと思ったのです。しかし、隣で母は感動して明るい表情になり、勇気を得たと言うのです。
そのとき私は、映画は品質よりもメッセージだと学びましたね。私はこれからも希望を与えられるメッセージ性のある映画を撮っていきます。死ぬまで映画を撮り続けますよ。愛と希望を分かち合い、映画を通して人々に影響を与えていきたいのです」
クワン監督はときどきティッシュで涙を拭き拭き、インタビューに応えてくれました。本当に心優しくて、情熱家で、想いが強い人だからこそ、このような人にやさしい映画が作れるのですねえ。
涙もろいエイドリアン・クワン監督のやさしさに溢れた映画『小さな園の大きな奇跡』は、ルイ先生の大きな愛に包まれながら、私たちが子供たちにできることは何だろうと考えるきっかけをくれる映画です。
取材・撮影・文=斎藤 香(c)Pouch
『小さな園の大きな奇跡』
(2016年11月5日より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー)
監督:エイドリアン・クワン
出演:ミリアム・ヨン、ルイス・クーほか
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▼映画『小さな園の大きな奇跡』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=-ZhFcfFWuRk
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