ここは、恵比寿のはずれに佇む雑居ビルの2階、スナックマリアンヌ。ダメそうでダメじゃないちょっとだけダメな男に悩む乙女が夜な夜な集う、憩いの場です。今宵も、マリアンヌママに話を聞いてもらおうと、お客さまがやってきたようです。
――カランカラン
乙女「焼酎の水割りください。濃いめで」
ママ「あら、いける口! 何か話があるのかしら?」
乙女「ハァ〜〜〜ッ(深いため息)まさに悩みのタネはお酒なんです。ちょっと聞いてくれます?」
【今日のダメ男さん:遠慮がちな隠れ酒豪女子の前で、女子力高めなお酒を飲む男】
相談者:ユウコ(30歳)
職業:アパレル企業勤務
ダメ男さん:彼氏 (25歳)
職業:IT企業勤務
交際期間:2か月
出会いのきっかけ:居酒屋で隣の席になったこと
ユウコ「私、けっこう飲む方なんですけど……」
ママ「ええ、何となくわかってたわ」
ユウコ「あっ、そうですか…。彼氏もけっこう飲めるんですけど、頼むのはだいたいカシオレとかカルーアミルクとか、女子力高めなお酒ばっかりで。それに基本的に甘えたがり屋で、ちょっとなよっとしてて頼りないし、なんかペットっぽいっていうか、そこがカワイイと思って付き合ったところもあるんですけど、でもなんか私の立場がないっていうか。ハァ……。あっ、おかわりください」
ママ「今、お酒作るわね。あと、あなたにはこれ。柿の種チョコよ」
ユウコ「ああ、柿の種のチョコ味!(ポリポリ)私、普段甘いものは食べないけど、これは甘じょっぱいから好きなんですよね」
ママ「それで、彼がカシオレやカルーアミルクを飲む時、あなたは何を飲むのかしら?」
ユウコ「レモンサワーとかかな。やっぱり、カシオレを頼む彼の前で焼酎とか日本酒は頼みづらくって」
ママ「どうして彼に合わせるのかしら?」
ユウコ「それはその、やっぱり彼を立ててあげたいし、自分よりも飲む女は嫌いかなって。私、彼よりも5つも年上だし……。でも、ストレスたまっちゃって」
ママ「それで、今日は焼酎なのね」
ユウコ「彼と会ってるときと会ってないときでギャップがあるのは、よくあることじゃないですか、女子なら」
ママ「ええ、わかるわ。私も、お休みの日のすっぴん姿は、ママだってバレない自信があるわ……。でも、間違いなくあなたの良さのひとつは、お酒を飲めること。あなたはそのセールスポイントを、自ら放棄してしまっているのよ?」
ユウコ「えっ、そうなんですか?」
ママ「よく考えてごらんなさい。ふたりの出会いは居酒屋で、デートも居酒屋。だったら、彼はお酒の場が嫌いなわけじゃないはず。むしろ、最初に居酒屋で出会った時のあなたの姿に好意を持ったから、付き合っているんでしょう?」
ユウコ「たしかに…そうかもしれません」
ママ「気にせずに、飲んでごらんなさい。お酒好きは、お酒を飲めることがひとつの売りなの。インスタ映えだとか何とか言ってる、パンケーキ好きの女子になんか負けてたまるかっての……! あ、ごめんなさいね。ついつい汚い言葉が出ちゃったわ。今のあなたは、先入観のかたまり。年上ってことも気にしてるようだけど、年齢は関係ない。彼はあなたの年齢を知って付き合ってるんだから、最初からあなたに同い年の女の子らしいかわいさなんか求めてないと思うわよ」
ユウコ「そっか……。私、年上だからって変に気にしてたのかも」
ママ「まずは、あなたの持っている常識という壁を破ってみること。あなたはあなたで、男が甘い酒飲むなんて……ってどこかで思ってない? 女が強い酒飲んで、男が甘い酒を飲んだって、別にお互いが楽しく飲めればそれでいいじゃない」
ユウコ「“常識という壁を破る”…。ママ、今から彼を呼んでもいいですか!?」
ママ「あら、楽しみね。甘さとしょっぱさは、食べものも恋も、絶妙なハーモニーを生み出すものなのよ。この柿の種チョコのようにね……」
ユウコ「ママ、ごめんなさい!やっぱり彼が、おいしいワインのお店に行こうって! もう行きますね、ありがとう」
ママ「どうせうちは、場末のスナックですもの。安ワインしかないわよ…」
ユウコ「えっ?」
ママ「何でもないわ。さあ、行ってらっしゃい」
――カランカラン。
こうして、今日もダメ男に悩む乙女をまたひとり、恋愛という戦場に送り込んだマリアンヌママ。次のお客さまは、あなたかも!? スナックマリアンヌでは、迷える乙女の悩みを聞く憩いの場として、いつでもご来店をお待ちしています。
撮影協力:コワーキングスナックCONTENTZ分室
執筆=マリアンヌ (c)Pouch / 撮影=K.ナガハシ
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