2018年3月下旬に公開された、東京都による「東京オリンピック・パラリンピック」のボランティア募集要項案。あくまで「案」ながらも、「やりがい搾取だ」「日程に無理がありすぎる」などの批判が殺到したのは、まだ記憶に新しいところです。
その内容はこうでした。参加条件は「東京都が指定する研修会にすべて参加すること」「連続活動期間10日間以上」など、そして「東京までの交通費及び宿泊は自己負担・自己手配となります」、つまり自腹であること。いや、これハードすぎるでしょ……。
各方面からの批判を受けて見直された要項案には、連続活動期間を5日以内にすること、交通費を一定程度支給することなどが盛り込まれました。6月12日には「東京2020オリンピック・パラリンピック ボランティア紹介サイト」が公開されています。
しかし、それでも世間の反応は変わらなかった、どころかよりいっそう厳しい意見が飛び交うばかり。私自身も正直、募集要項や呼びかけを見て「なんだかなぁ……」という感想を抱いてしまいました。
かつてボランティアを経験した私にとっては、東京五輪、ひいては日本における「ボランティア」の意味が、本来の意義からずいぶんかけ離れたもののように思えてしまうからです。
【カナダ留学中のボランティア経験】
カナダに語学留学中のこと。ボランティア通訳として、1週間ほど日本人留学生たちのツアーに同行したことがあります。
ツアーでは、メンタルケア中心の社会福祉施設や、DVシェルターなどを訪問。メジャーリーグ観戦やナイアガラの滝観光などへも同行し、とても有意義で得難い体験をしました。
【報酬はないけれど】
そのボランティアでは、交通費や食事、施設入場料などの費用はすべて学校負担でした。学生ビザしか持たない留学生は報酬を金銭で受け取ることはできないので、そのかわり必要な費用は学校が負担する、というしくみです。
最終日、学校側から「貴重な夏休みを使ってくれてありがとう、助かったよ」と言葉をかけてもらいました。ただ「良い経験をさせてもらった」だけではなく、ちゃんと私の能力や差し出した時間を評価してもらえたことが、とても嬉しかったのを覚えています。
【ボランティア=無償奉仕、じゃない】
そんな私が、今回の東京五輪・パラのボランティアの件を見ていて、なんだかモヤモヤしてしまう理由。
まずは「ボランティアだからお金は出なくて当然」という空気を募集要項や公式サイトから感じること。
もちろん、清掃や道案内など、志ひとつで協力できることはあります。「東京五輪を成功させよう」という思いで集まる無償のボランティアを否定するわけではありません。
それでも、熱意ばかりを求め、本来ならば金銭が支払われるべき技術や能力に対してまで「ボランティアは無償で当たり前」という考え方を通そうとするのは、あまりに敬意が足りていないのではないかな、と。
海外ではスキルに応じた有償のボランティアもたくさんあります。ボランティア=無償奉仕、では決してありません。
【アルバイトとボランティアは違う】
有償ならアルバイトじゃないの? と思われるかもしれません。でも、アルバイトや仕事は、原則として生きていくお金を得るために行う労働。
それに対してボランティアは、何らかの目的や目標、コミュニティのために自身の能力や時間を使いたいという、積極的な意志があることがまず大前提です。
ボランティアかアルバイトかは、決して「無償か、有償か」の違いではない。それは日本語としての「意味」の問題ではなく、本来の「意義」の問題だと私は思うのです。
【「チャンス」や「経験」とは】
また、募る側が「無償」にこだわるあまり、経験やチャンスといった「お金に変えられないやりがい」を強調することにも、違和感を拭えません。
言い方は悪いですが、意欲がある人の向上心や、「技術を活かしてみたい」「経験が欲しい」という気持ちを煽って、ボランティアへの参加を促しているように見えてしまうんですよね……。
当然、自国で行われるオリンピックでボランティア活動をするというのはまたとないチャンスであり、間違いなく一生に一度の経験になるでしょう。そういう切り口で人を集めることは、大事だとも思うのですが……。
【まだ「検討中」の項目も―変更の余地は?】
東京五輪・パラのボランティア募集は、現在要項が発表されたばかりで、正式募集は今年の9月からです。よくある質問などを見てみると、たとえば大会ボランティアに関しては、参加者への保険の配備などを検討している模様。
一方で、都市ボランティアに関しては「労働力の対価としての報酬はない」と明確に書かれていました。
正式募集が始まるまでの間に、こういった条件に変更が加えられるのかは、まだ今のところわかっていません。ただ、ここまで大きくなっている人々の声は、きっと都やオリンピック委員会にも届いていると思います。
東京五輪・パラのボランティアについて今起こっている議論が、今後の日本における「ボランティア」の考え方の転換点になりますように。
参照元: 日本財団ボラサポ2020, TOKYO 2020, 東京ボランティアナビ
執筆=森本マリ (c)Pouch
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