【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年8月30日公開)です。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが夢の共演!加えて監督はクエンティン・タランティーノ!という超豪華作品になっております。レオが落ち目のテレビ俳優、ブラッドはレオ演じる俳優のスタントマンという設定。

観た感想は「さすが!」でありましたよ。では物語からいってみましょう!

【物語】

リック(レオナルド・ディカプリオ)は落ち目のテレビ俳優。仕事がなく、ちょっと腐り気味。クリフ(ブラッド・ピット)はリックの友達で彼に雇われてスタントマンをやっています。ある日、リックの家の隣に若手の実力派監督ロマン・ポランスキーと妻の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)が引っ越してきました。そのときから、リック、クリフの人生は変わっていくのです。

【実話とフィクションが鮮やかにミックス!】

本作は、1969年に実際に起こった「女優シャロン・テート惨殺事件」をベースに、リックとクリフというショービジネス界で売れたくて右往左往している架空の人物の物語をミックスさせて描いています。売れない俳優たちの焦りや、映画業界の裏側、そして細かいところまで再現した60年代の衣装、小道具、映像など、映画オタクのタランティーノ監督らしい作品です。

【シャロン・テート惨殺事件とは?】

とはいえ、この映画を楽しむためには、1969年に起こった「シャロン・テート惨殺事件」の予習が必要。この事件が後半の見せ場ゆえに、知らないとチンプンカンプンになってしまうからです。

というわけで、事件のことをザックリ説明いたします。シャロン・テートは駆け出しの新人女優で、夫は映画監督のロマン・ポランスキー。シャロンは夫が不在の夜、友人たちと自宅にいたときに、カルト集団マンソン・ファミリーに惨殺されました。シャロンは享年26歳、妊娠8ケ月。将来ある女優の身に起こった悲劇としてハリウッドでは今でも語られている事件です。

【リックとクリフの最高のバディ感】

本作は、シャロン・テートの事件までの行動と、リック&クリフの行動と、シャロンを惨殺することになるマンソン・ファミリーの行動という、同じ時期に起こる3組のエピソードを交互に描き、ときどき人物同士をリンクさせながら展開していきます。

メインで描かれるのはレオとブラッドが演じるリックとクリフ。売れないことに焦りを感じ、自信を失っているリックと、何があっても動じない、メンタルも腕っぷしも強いクリフの相性が抜群! 火花を散らす演技合戦というより、ずっと大親友だったように感じさせるバディ感がもう泣けるほど素敵。レオとブラッドの魅力が溶け合って、2人のシーンはずっと見ていたいと思わせるような極上の時間でした!

【可愛いシャロンと怪しいヒッピー集団】

マーゴット・ロビーが演じるシャロン・テートはとても可愛い女性です。自分が出ている映画を観に行き「私、これに出演しているのよ」と映画館の人にウキウキ語る姿は新人女優らしい初々しさで、とてもキラキラしていました。それだけに「このあと殺されてしまうんだ」という事実に胸が痛くなってしまいます。

一方、マンソン・ファミリーは、事件の首謀者チャールズ・マンソンに洗脳されている若い男女がコミュニティを作って暮らしています。住居は映画撮影用のセットの家。そこに、ヒッチハイクしていたヒッピー女を送り届けたクリフが登場。おかしな集団の中にいてもビビらないクリフは、ヒッピーの顔を数人覚えます。その人物たちが事件に関わって来るのです。

【ラスト13分、映画史を変えるほどの結末とは!】

事件当夜、マンソン・ファミリーがリックやシャロンが暮らす豪邸が並ぶ一角にやってきます。「ここから惨劇が!」と、超ドキドキハラハラして観ていたのですが「あれ?」という展開なんですよ。

もちろん超過激な情け容赦ないバイオレンスがこれもでかと展開していきますが想像と違った! 60年代のハリウッドを愛しているタランティーノ監督はこれをやりたかったのかと。リックとクリフが巻き起こす強烈などんでん返しは、ちょっと呆気にとられましたが、天国のシャロン・テートに観てほしいとも思いました。

クエンティン・タランティーノ監督は、長編10作を撮ったら引退すると宣言しており『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は9作目! もうタランティーノ×レオ×ブラピの組み合わせの新作はないと思われますので、この機会にぜひスクリーンで観ていただきたいです。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
(2019年8月30日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、オースティン・バトラー、
ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、アル・パチーノ