【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回は永瀬廉(King&Prince)の主演映画『弱虫ペダル』(2020年8月14日公開)です。

『弱虫ペダル』は2008年から連載が開始され、12年目を迎える少年チャンピオンの人気連載漫画。舞台やアニメに続き、ついに実写映画化されると超話題なことに加え、永瀬廉さんが主役の小野田坂道に抜擢され、ジャニーズファンたちも大興奮!

では、さっそくご紹介いたしましょう!

【物語】

小野田坂道(永瀬廉)は、高校入学後、アニメ研究部に入部してアニメ好きな友達を作ることを楽しみにしていましたが、アニメ研究部は休部。ショックを受ける坂道に今泉俊輔(伊藤健太郎)が自転車レースで勝負しようと声をかけてきました。

学校までの急な坂道をママチャリで軽々上る坂道を見て、今泉は彼に興味を持ったのです。それが坂道と自転車競技との出会い。このときから彼は自転車の楽しさに目覚めていき、自転車競技部に入部することに……。

【心身ともに追い込んで坂道になりきった永瀬廉】

原作は未読で映画を鑑賞しましたが、とても爽やかで気持ちのいい快作でした。自転車競技との出会いは、引っ込み思案のアニメ好き少年の人生をガラリと変えてしまうのですが、坂道が自転車競技にのめりこんでいったのは、競技の楽しさだけではありません。

これまで友達もできず、ずっとひとりでアニメに向き合ってきた男の子が、仲間と一緒にひとつの目標に向かって走り続けることの喜びを知ったから。劇中、何度も「楽しいです!」と言いながらペダルを踏み続ける坂道の屈託のない笑顔、可愛かった~。

キンプリの永瀬さんは体育会系のイメージはゼロだったのですが、心身ともにかなり追い込んだのが映画を見るとよくわかります。自転車で走れば走るほど、永瀬廉から小野田坂道になっていったんじゃないでしょうか。役者としてステップアップした感がありました。

【抜群の存在感で作品を支えた伊藤健太郎】

永瀬さんと同じチームで切磋琢磨してテッペンを目指す今泉俊輔役の伊藤健太郎さんは、もともとガタイがいいイメージがありましたが、自転車で爆走する伊藤さんの姿は、本当に自転車競技の選手かと思うほどたくましかったです。

今泉はレースで死ぬほど悔しい挫折を経験した過去があり、それを乗り越えるために闘っています。坂道よりも競技者としてのレベルはずっと上ですが、自転車競技に没頭し「みんなと走れることが楽しい」という純粋な坂道に刺激を受けて、助け合いながらテッペンを目指す姿、その友情にはジーンとくるものがありました。

それにしても伊藤さんはもはや若手の演技派トップクラスですね。映画の中で今泉として生きていましたから。そこに伊藤健太郎は全く感じられませんでした。本作の伊藤さんは主役を食う勢いの存在感を見せつけています。

【本作の自転車競技はチーム戦。かけひきが面白い】

自転車競技を見たことがなかったせいか、後半のインターハイ予選のシーンなどかなりエキサイティングで驚きました。チームで縦一列に並んで走るとき、先頭は風の抵抗を受けるので交代しながら走るのですが、坂道たちのチームはこのとき大胆な作戦に挑むんですよ。

レースの序盤から「えええ~、そんなことして大丈夫なの?」とヒヤヒヤ。自転車競技はこういうかけひきが随所にあり、そこが面白いです。坂道も勝利のために体を張って大貢献!

またこのレースはライバルも強いのでけっこうハラハラさせる展開で、映画鑑賞というより、完全にスポーツ観戦気分。ラストスパートなんて「お願い勝って!」と心の中で本気で祈っちゃいましたよ。

【原作を大切にしている作品】

永瀬廉主演作なので、ばっちりアイドル映画と思いきや、アイドル色は薄く、あくまで実写映画として『弱虫ペダル』の世界を大切にしています。坂道の周辺のキャラクターも坂道に負けないくらい立っているのは、細部にいたるまで丁寧に描かれているから。

またコロナ感染症拡大による緊急事態宣言で、撮影が2カ月くらいストップしていたそうですが、スタッフとキャストがモチベーションを落とすことなく、撮影再開後も懸命に作品作りに情熱を傾けていたことは本作を観ればわかります!

坂道と一緒に自転車競技の楽しさにグングン引き込まれていく本作。ジャニーズファン、原作ファンだけでなく、ちょっと凹んでいたり、モヤモヤしている人にもオススメ。坂道の魅力は何事にもポジティブに前進する純粋さ。この映画を観て、坂道からポジティブな気持ちを分けてもらいましょう!

弱虫ペダル
(2020年8月14日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:三木康一郎
原作:渡辺航『弱虫ペダル』(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載)
出演:永瀬廉(King & Prince)、伊藤健太郎、橋本環奈、坂東龍汰、栁俊太郎、菅原健、井上瑞稀(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、竜星涼、皆川猿時
©2020映画「弱虫ペダル」製作委員会 ©渡辺航(秋田書店)2008