イメコンで驚きの変身を遂げたライター梶本さんにファッションとの格闘を語っていただく連載「私がイモムシから蝶になるまで」。第2回は、梶本さんがファッションへのトラウマを抱くようになった黒歴史についてです。
平成4年、バブルの崩壊と同時に186㎝の父と172㎝の母の間にひとりの女の子が爆誕した。
人の前に立って何かをするのが好きで、ホームビデオには『大きな栗の木の下で』を縦ノリで踊る様子が収録されている。
異変が起きたのは彼女が4歳のとき。
幼稚園で同じ組のたっくんと”けっこんしき”を挙げて間もない頃だった。
【秒速で過ぎ去った可愛い時代】
たっくんが徐々に縮んでいる。それだけではない。トイレに至っては日に日に天井が迫ってきている。ウンコをしているうちに潰し殺されてしまうのではないかと気が気ではなかった。
だが、そんな心配は杞憂であった。
自分がデカくなってるだけなのだから。
気づけばハワイ生まれの黒人男子カビカ君を抜いて園内一のビッグチャイルドになってしまった。
たっくんにはキスがしにくいからと「たっくんのためにちぢむからね」とガタガタの字でラブレターを書いた。健気だ。
可愛い。抱きしめたい。
しかしそんな愛おしさも成長と共に薄れていく。
どうしようもなくデカくなっちゃうのだから。
この頭ひとつぬけた眼鏡女子こそ小学3年生の私である。
無地のTシャツと歩く度シャカシャカ鳴るズボンは相性抜群。チェックのネルシャツでウエストマークし、仁王立ちで周囲に差をつけちゃおう☆
ピチレモンにもポップティーンにも載っていない獣道コーデ、我がことながらアッパレである。
「せめて笑いな~」
ダレノガレ明美がそう言い去りそうではあるが、このころに撮られた写真は大抵この顔かどうしようもなくふざけた顔をしている。
カメラに向かって笑えなかったのだ。
【トラウマの地 渋谷】
当時は女子小学生向けのブランドが流行っていた。ポンポネット、メゾピアノ、エンジェルブルー、3年2組etc…。
どの子もお気に入りのブランドがあり、ショップ袋に体操着を入れたりして密かにアピールしたものだった。
流行に疎かった私も「みんなと一緒に盛り上がったり羨ましがられたりしたい!」という想いから興味を持つようになった。
そんな中、友達のお母さんが109に連れていってくれることになった。伝説のギャル漫画、『GALS』を読んでいた私は蘭たちが闊歩しているあの渋谷に行くのだと心底ワクワクした。
母親に事情を話し、頼み込んでおこずかいとは別に特別給付金を頂く。その額500円。小学生にとっては大金である。
何を買おうかな。中村くんがかかれたロングTシャツ?ピンク色が可愛いメゾピも捨てがたい。その日は頭を悩ませながら眠った。
そして迎えた当日。お祭りのような人ごみをかき分けて109に入り、友達が普段行っているブランドを順に見てまわる。
「これみてママ!可愛い!」「似たようなワンピースこの前も買ったじゃない。これはどう?」
そんな友達とお母さんの会話が遠くに感じるほど私は洗礼を受けていた。
高すぎる。どれも8000円近くするのだ。
こんなの札束を身体に貼り付けているのと同じじゃないか。全く良さがわからない。
しかし土下座に近い懇願の結果手に入れた軍資金を泡沫に帰すわけにはいくまいと500円で買えるものを必死に探した。
109で何かを買った。その事実に価値があるのだ。
しかし再び愕然とした。ボールペンでさえ1200円するのである。
匂いがついている訳でも暗闇で光る訳でもなんでもないペン1本が、四桁である。あたしゃ文房具を買う権利もないのかい。
膝から崩れ落ちそうになる。膝にアザができたら「109で作ったアザだよ~」と自慢できるかもしれない。できるか。たわけが。
そう落胆した矢先にひとつの輝きを目にする。先端に青いビジューがついた鉛筆だった。515円。結局友達のお母さんに15円おごってもらって鉛筆1本を手に帰ったが、見るたびに忌々しい思い出が蘇ることとなった。
【念願のエンブルが手に入るも…】
そんな中、祖母から送られてきた服の中になんとエンジェルブルーのロングTシャツが紛れていた。バザーで安かったというそれはキャラクターこそ描かれていないものの、正真正銘のエンブルであった。
急いで袖を通す。腹が出る。首が締まる。きつすぎて腕が上がらない。明らかにサイズが合っていないのである。もういいぜ。
160㎝の女子小学生には女の子らしい恰好はできない。そんな事実が私から可愛げを奪い去った。
【女らしさを諦めたその先で】
そうしてオシャレの土俵から降りた私は女として生きることを諦めた。ユニクロのメンズで全身を固めた私は、独自の路線を走り始める。
レクリエーション係になってストッキングをかぶり全校生徒の前で笑いを取り(まごうこと無き事実である)、好きな男子にはその子がハマっているものをリサーチしてアピールした。みんながモー娘。のブロマイドを買う中、私は好きな男子と話を合わせたくて遊戯王のデッキを組んでいた。
しかしステータスをユーモアに極振りした女子がモテるはずもなく、年イチペースで違う男の子に告っては振られ、中3までに計6人の男の子に振られた。(心が)鉄の処女である。
そんな私も中2の時、一度だけ好きな男の子とトリプルデートの機会をつかんだ。さすがにこれはユニクロではいけない。勝負服を買うため、5年前と同様母親に土下座する勢いで頼み込んだ。
そうして手に入れたその額5000円。前回とは桁が違う。ハイブランドに限らなければフルコーデでなくても何か1着は買えるだろう。母のやさしさを感じた。
結果、たまたま入ったお店のお姉さんに乗せられ、恐ろしくタイトなスキニージーンズを買ってしまった。BoAも戦うバディをねじ込めないレベルでタイトである。
しゃがむどころかまともに膝を曲げられず、トイストーリーのウッディみたいな歩き方になってしまう。きちんと試着もしていたが「スキニーなんで、そんなもんです」の一言に押されてしまった。失敗した。
結局母のおさがりのジーパンとワイシャツでOggiみたいなアラフォーコーデを練り上げ、その男の子にも振られた。
【可愛さへの畏怖】
可愛い女の子が大好きで憎かった。加護ちゃんに憧れているのにアンチだった。
自分の手からスルスルと零れ落ちるキラキラした何かに、唾を吐きかけてガニ股で歩くようになった。
私にそういうのはいらない。ああいうので盛り上がってる女はしょうもない。
リズリサやアンクルージュなどフリルが効いた苺柄のワンピースに心が惹かれても、必死で抑えつける。
オシャレに金をかけることを辞め、ハードオフで買った適当な古着を着て過ごした。
しかし、年齢を重ねるごとに女を捨てたままでもいかなくなってきた。
社会人はメイクをするのが当たり前。
看護師として働き始めたとき、白衣によってファッションの苦悩から解放されたと思いきや、今度はメイクの壁にぶち当ったのである。
次回はメイク初心者の私が外見の見せ方に悩んでいた頃のお話から。「そもそも私とエビちゃんじゃ顔が違くない?」「結局すっぴんキャラが一番楽」など諦め女子感満載でお届けする予定。乞うご期待!
執筆・撮影:梶本時代 (c)Pouch
コメントをどうぞ