【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、レディ・ガガ主演の最新作『ハウス・オブ・グッチ』(2022年1月14日公開)です。イタリアの超人気ブランド、グッチの創業者ファミリーには、驚くべきスキャンダラスな過去がありました。その一部始終を描いたのが『ハウス・オブ・グッチ』。試写で観させていただきましたが、グッチの創業者ファミリーは愛憎渦巻くドロドロな一家でしたよ……。では物語からいってみましょう。

【物語】

父親が営む運送屋を手伝っていたパトリツィア(レディ・ガガ)は、友人に誘われて参加したパーティで、グッチ創業者の孫マウリツィオ(アダム・ドライバー)と出会い、恋に落ちます。

マウリツィオの父(ジェレミー・アイアンズ)は「財産目当てだ」と反対しますが、グッチのトップであるアルド(アル・パチーノ)は彼女を気に入り、マウリツィオとパトリツィアは結婚。

家業を継ぐ気ゼロだったマウリツィオでしたが、パトリツィアの説得でグッチの運営に関わるように。パトリツィアも夫をサポートし、やがて野心家の彼女はグッチを支配していきます。

しかし、夫婦の歯車はかみ合わなくなっていき、ついに夫のマウリツィオ殺人事件へと突入していくのです!

【人気ブランドの一族の崩壊には驚きがいっぱい】

憧れブランド「グッチ」の映画ですから、スキャンダルがある作品だと知りつつも、結果的には美しいクリエイティブ的な世界観で「さすがグッチ!」と感じられる作品になるのでしょう……と思っていました。

ところが、グッチ一族は変わり者ばかり。トップは金儲けのことで頭がいっぱい。マウリツィオの父はアートに偏りすぎ。マウリツィオは経済観念ゼロの浪費家。そしてマウリツィオの従兄弟は才能ゼロのデザイナー志望で、家族からもスルーされるという情けなさ。「大丈夫なの?この家族」と心配になるほど。それほどグッチ一族はグズグズだったのです。

【マウリツィオとパトリツィアの幸福な関係をつぶした野心】

とはいえ、前半、パトリツィアとマウリツィオの恋愛は「身分の差を超えた愛」といった描き方で幸福なカップルだったのです。パトリツィアの実家で暮らす二人はラブラブ。でもやはり権力とお金は人を変えてしまうのですね。

グッチ一族がパトリツィアを迎え入れてから、彼女の中の野心が目覚めます。その強さに、やがて夫の心が離れていく……。

マウリツィオの愛人や占い師も登場。さまざまなネガティブな出来事が、彼女の心をかき乱し、犯行へと走らせていくのです。

世界的なブランドの崩壊の物語が昼メロのサスペンスみたいでちょっと意外でした……。

【レディ・ガガ、渾身の演技!】

パトリツィアを演じたレディ・ガガは、主演女優として堂々とこの映画をリードしていました。本作はパトリツィアを100%悪女には描いておらず、彼女のマウリツィオの一途な愛も描きます。愛しているからこそ、平常心を保てなくなり、間違った行動を選んでしまうというように。

レディ・ガガは、ヒロインの波乱万丈な人生、ジェットコースターのように揺れ動く感情、愛が憎しみに変わる瞬間をしっかりとらえていました。まさに渾身の演技で見応えたっぷりです!

現在、グッチの経営に創業者一族はかかわっていないそうですが、この映画を見ると納得してしまうかも。

けれど、本作は事実とは違う脚色がなされているとも言われており、フィクションと事実の間くらいの気持ちで観た方がいいかもしれません。

執筆:斎藤 香(c)Pouch

ハウス・オブ・グッチ
(2022年1月14日より、TOHOシネマズほか全国ロードショー)
監督:リドリー・スコット
出演:レディ・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジャレッド・レトほか
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