【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
ピックアップするのは、横浜流星主演映画『線は、僕を描く』(2022年10月21日公開)です。水墨画に魅了された青年の成長を描いた作品なのですが、またもや横浜流星さんの演技が素晴らしい……! 共演も清原果耶さん、三浦友和さん、江口洋介さんと豪華なんですよ。それでは物語から。
【物語】
大学生の青山霜介(あおやま・そうすけ / 横浜流星さん)は、絵画展設営のアルバイトで水墨画と運命の出会いをします。
その後、水墨画界の巨匠・篠田湖山(しのだ・こざん / 三浦友和)に声をかけられ、彼は湖山の弟子として水墨画と向き合うように……。
湖山の孫であり気鋭の水墨画家・篠田千瑛(しのだ・ちあき / 清原果耶さん)とも出会い、悲しい過去によってどん底を味わった霜介の人生に少しずつ光が差し始めるます。
【横浜流星の快進撃が止まらない】
ひとことで言えば「やっぱり横浜流星はすごい!」。
今回の役は、湖山の水墨画にこれまでにない感動を覚え、吸い込まれていくように墨画にのめり込んでいく静かな青年・霜介。
『流浪の月』のDV彼氏や『アキラとあきら』のエリート銀行員などのような、強い個性を持った男ではなく、主役のわりに意外と受け身なキャラクターである点もおとなしい印象を与えています。これがまたいいんですよ〜。
手取り足取り教えるタイプではない巨匠・湖山は、ある程度まで教えたら、あとは自分で考えさせます。
そんな湖山の教えに戸惑いながらも諦めず、水墨画に真正面から向き合う霜介の姿がいい!
それこそ、真っ白な紙に墨で線を描くのと同じように、真っ白な霜介が墨に染まっていく。グングン吸収していく様が自然で、観客の心の中にスムーズに霜介という人物が入ってくるのです。
横浜さんの肩の力を抜いた素直な芝居が、水墨画をより身近に感じさせてくれます。
【霜介と千瑛の関係が気になる?】
霜介を取り巻く人物の中でいちばん距離が近いのが、湖山の孫の千瑛。
物語が進むにつれて千瑛と霜介の距離が縮まっていくので、「もしや、恋ネタも絡んでくる?」と思ったら、彼女は水墨画に恋しているような女性。その道を極めることに一生懸命です。
だから、霜介との関係も同志のように感じます。
安易に恋愛を描かないことで、主人公が水墨画を通して成長していくという軸がブレず、物語に集中できていいと思いました。
【江口洋介ブーム、来るか?】
助演の俳優陣では、いちばん弟子の湖峰さんを演じた江口洋介さんがいいんですよ〜。江口さんは『七人の秘書 THE MOVIE』で演じた秘書たちの元締め役が良かったけど、今回はもーっといい!
おおらかで頼りになる弟子たちのアニキ的な存在で、かつ才能溢れる湖峰さん! 彼の見せ場が後半にあるのでぜひ注目していただきたい!
過去に起こった悲しい一件から、心を閉ざしていた霜介を暗闇から救い出した水墨画。水墨画に興味がなくても、こんなに美しくて繊細で心を震わせる芸術なんだ! ときっと思うはず。
技術は努力で習得できても、感性はその人自身の持つ世界であり、それが個人の芸術になっていくのです。
ちなみにキャストたちは実際に水墨画を練習して撮影に臨んだそう。横浜さんも空いた時間を見つけては練習に励んでいたそうです。そんな彼の水墨画への挑戦を是非、その目で確かめてください。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:(C)砥上裕將/講談社、(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
『線は、僕を描く』(2022年10月21日より全国ロードショー)
原作:砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社文庫)
監督:小泉徳宏
出演: 横浜流星
清原果耶 細田佳央太 河合優実
矢島健一 夙川アトム 井上想良/富田靖子
江口洋介/三浦友和
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