【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
ピックアップするのは、北欧の鬼才による大風刺コメディ映画『逆転のトライアングル』(2023年2月23日公開)。
以前Pouchでご紹介した映画『フレンチアルプスで起きたこと』(2014年公開)のリューベン・オストルンド監督の作品で、人間のヤバい一面を笑いと共にえぐり出すのが上手いんですよね。
第75回カンヌ国際映画祭パルムドール賞(最高賞)を受賞し、第95回アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞候補にも選出された本作。今回も最初から最後まで楽しませてくれましたよ!
では、物語から。
【物語】
人気モデルのヤヤ(チャールビ・ディーンさん)は、同じくモデルの彼氏カール(ハリス・ディキンソンさん)を誘って豪華客船のクルーズの旅へ。インフルエンサーとしても人気の彼女はご招待されていたのです。
彼ら以外の乗客は、桁違いのお金持ちばかり。有機肥料で成功した成金男、武器商人などが自慢話を振り撒いていました。
しかし楽しい時間は束の間、船は嵐に突入して転覆! セレブたちは無人島に流されてしまうのです。
【第1部:インスタ女と二流モデルの男】
とても痛快で、けっこうお下品なんですけど、めちゃくちゃ面白かったです。
セレブだけを風刺しているわけではなく、権力を握った人間の勘違い、優越感の浅はかさ、金に動かされる人間の愚かさを描いています。そう、今の時代を生きている人々の全てのおかしな思い込みや勘違いを風刺しているのです。
本作は3部構成で成り立っており、第1部はこの映画のメインとなるカップル、ヤヤとカールのエピソード。
舞台は高級レストラン。ここでふたりは会計で揉めに揉めるのです。おごってもらって当然という彼女に、「昨日、私がおごるからって言ってなかったっけ?」と言うカール。
「男が必ず払うという風潮はおかしいだろ」と言うカールの主張に「払うわよ!」とキレるヤヤ。
「どっちが払う問題」って誰もが1度は経験しているのではないでしょうか。だからこそ面白い。
また観ているこちらからすると、ヤヤの中身は空っぽ。なのに、ずーっと他者に対して優越意識を持ち続けている……その鈍感さがすごいと思いました。
【第2部:豪華客船に曲者セレブ】
豪華客船クルーズに参加している曲者セレブたちは、スタッフに無理難題を押し付け、丁重に断っても絶対に折れない。
とはいえ、スタッフ側もセレブからの高額チップが目当て。スタッフミーティングでは全員が「マネーマネー!」と絶叫していますからね。もうお互い様って感じなんですよ。
その船が嵐に突入! 高級食材のディナーを楽しんでいたセレブたちは、大揺れの船に酔いまくり、胃袋から口へと食べ物が逆流し、噴水のようにパーッと出てしまいます。もう船上は地獄絵図!
鼻持ちならないセレブたちの大醜態をこれでもかと見せるオストルンド監督、本当に意地悪だなあと思いましたよ(笑)。
【第3部:無人島でセレブとトイレ係の立場が逆転】
豪華客船は転覆して、ヤヤとカールを含むセレブたちの数人が無人島に流れ着きます。スマホも使えない、食べ物も水もない……いつも誰かにお世話をしてもらっていたセレブたちは途方に暮れていました。
そこに現れたのは、救命ボートで流れついた豪華客船のトイレ係・アビゲイル(ドリー・デ・レオンさん)。彼女は火を起こせるし、海で獲った魚を捌いて料理をしてくれる!
「よかった」と喜んだのも束の間、アビゲイルは「ここでは私がキャプテンだから。私に従いなさい」と権力を振い始め、立場が大逆転!
アビゲイルはイケメンのカールを救命ボートに連れ込んだり、やりたい放題。
しかし、「仕方がない」といった風のセレブの皆さん。「みんなで協力して頑張りましょう!」「なんとかしなくちゃ」なんて気合いはないんですよ。
とはいえ「現実はこんなもんかもしれない」とも思ったりして複雑……。自分だったら? と色々考えちゃいました。
そして、ラストにヤヤがアビゲイルに放った言葉が痛烈! 無意識に出た言葉だろうけど、どんな状況に落ちても変わらない彼女の姿を劇場でぜひご覧ください。
最後に……とても悲しいことに、ヤヤを演じたチャールビ・ディーンさんが32歳で急逝。
ヤヤという女性の役の芯をしっかり掴んだ好演をしたチャールビさんのご冥福を祈りつつ、大風刺コメディ『逆転のトライアングル』を楽しんでください!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
『逆転のトライアングル』
(2023年2月23日 TOHO シネマズ 日比谷 他 全国ロードショー)
監督:リューベン・オストルンド(『フレンチアルプスで起きたこと』、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』)
出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン 他
配給:ギャガ
Photo:Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
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