【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは映画『高野豆腐店の春』(2023年8月18日公開)です。主演は藤竜也さん、娘役は麻生久美子さん。お豆腐屋さんを営む父と娘のとーっても心が温まるいい映画でした。

では、物語から。

【物語】

広島県の尾道でお豆腐屋さんを営む高野辰雄(藤竜也さん)と出戻りで一人娘の春(麻生久美子さん)はふたり暮らし。

こだわりの大豆から作る辰雄の豆腐の評判は上々です。しかし、辰雄は心臓病を患っており、春をひとり残して逝くようなことがあったら、と心配でたまりません

そこで、近所の商店街の仲間に頼んで、春の再婚相手を見つけてもらおうと作戦を立てるのですが……。

【ほっこり幸せな映画】

尾道のお豆腐屋さんのお仕事、商店街のご近所さんとの関係などがとても丁寧に愛情いっぱいに描かれている映画。観終わったあと、心がほっこりしました〜!

みんな思いやりに溢れていて、街の人が家族みたい。ちょっと昭和テイストの古き良きな感じもあって、その世界観が本作を魅力的に映し出しています。

【お豆腐屋のお父さんを演じる藤竜也さんが素敵!】

この映画の中心人物は春のお父さん・辰雄。

春のことが心配だけど、頑固で照れ屋だから、本当の気持ちを話せず、表向きにクールを装っているという役どころ。家族だからこそ本音を言いにくいってこと、ありますもんね。

そんな辰雄を演じる藤竜也さんは現在80代。本当にかっこよくて、お豆腐屋さんのユニフォームも様になる! 野暮ったさが全く感じられないんです。

病院で知り合ったご婦人・ふみえ(中村久美さん)と仲良くなっていくプロセスなんて、シニアの淡い恋の雰囲気。娘や近所の人には見せない顔を見せたりして……。

年を取ると健康のこと、家族のこと、心配事は増えるけど、でも新たな出会いや周囲の人との交流など、ささやかな幸せに感謝できるようになるのかなと、辰雄お父さんを観ながらそんなことを考えたりしました。

【麻生久美子さんの爽やかさが良い!】

いっぽうで、娘の春を演じる麻生久美子さんもいいんですよ〜。

お豆腐屋さんを一生懸命手伝う娘。近所の人に勝手にお見合い話を持ってこられたり、お豆腐の販売についてお父さんとちょっとぶつかったりしつつも、ちゃんと父をサポートするしっかり者。

どちらかといえば地味目でフツーのキャラなんですが、麻生さんがちゃんと魅力的に演じているので華があるし、可愛いんです。辰雄お父さんと春が腕を組んで歩くシーンなんて、めちゃくちゃ絵になっていて素敵だった〜。

【ささやかな幸せを噛み締めたくなる!】

お節介なご近所さんの賑やかさもこの映画を大いに盛り上げていて「おじさんも、おばさんも世話焼き過ぎだよ〜」と思いながらもニコニコしちゃう楽しさ。

いざという時に助け合えるこういう関係っていいかもしれないと思いました。高野豆腐店の小さな世界を描いた作品ですが、最後に明かされる家族の秘密にまで愛情が溢れていて、泣ける……。

心が疲れていたり、なんかモヤモヤしているときにおすすめ。温かい気持ちになれるし、お豆腐は美味しそうだし、気持ちがほぐれていくと思いますよ。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2023「高野豆腐店の春」製作委員会

高野豆腐店の春
(2023年8月18日よりシネ・リーブル池袋、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開!)
監督・脚本:三原光尋
出演:藤 ⻯也 麻生久美子 中村久美
徳井優 山田雅人 日向丈 竹内都子 菅原大吉 / 桂やまと 黑河内りく 小林且弥 赤間麻里子 宮坂ひろし