
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
ピックアップするのは、第96回アカデミー賞で11部門のノミネートを果たした映画『哀れなるものたち』(2024年1月26日公開)です。主演はエマ・ストーンさん、演出は『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督。試写で見せていただきましたが、美しい映像の中で繰り広げられる奇想天外な世界に度肝を抜かれました! では、物語から。
【物語】
自ら命を絶った不幸な女性、ベラ(エマ・ストーンさん)は妊娠していました。彼女は天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォーさん)の手で、彼女のお腹にいた胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生します。
体は大人の女性だけれど、脳は赤ん坊のベラ。その振る舞いはまるでワガママな赤ちゃん。でも彼女は急スピードで成長していきます。
そんな彼女を気に入ったのが弁護士のダンカン(マーク・ラファロさん)。ベラを旅に誘い、彼女はゴッドウィンと離れ、ダンカンと旅に出ることになるのですが……。
【大人の体のまま赤ちゃんからスタートする人生】
自分の子どもの脳を移植されて蘇生するヒロインという設定がエグく、1歩間違えるとB級映画になりそうな題材。
しかし、ヨルゴス・ランティモス監督の魔法のような演出と完璧な撮影、美術、衣装、そしてエマ・ストーンさんをはじめとする俳優陣の素晴らしい演技により、芸術的かつ刺激的な映画になっています。
赤ちゃんの脳を移植され、0歳から再スタートした “新生ベラ”。最初こそ幼児らしい自分勝手な行動で大人たちを振り回しますが、彼女はゴッドウィンの元で、生きるための知恵、そして “欲”を覚えます。
しかし、そのコントロールは意外と難しく、ベラは欲するままに行動し、やがて性欲へ。その衝動も抑えきれなくなるのです。
【欲が人生の原動力になる?】
人間は、誰もがさまざまな欲望を秘めていることはわかっていたけれど、それがこれほど人生に繋がっているとは……。ベラはすごいスピードで成長する中で、「何かをしたい」という欲が原動力になって行きます。
彼女の性欲にも目を背けずきっちり描いているので必然的にセクシーなシーンが多めですが、ベラはそういう行為にふけりながら、流されながらも、自分の人生を掴みとっていっていると感じました。
主演のエマ・ストーンさんはこう語っています。
「ベラは羞恥心やトラウマだけでなく生い立ちもありません。女性に制約を強いる社会に育っていませんから、信じられないほど自由。ベラは出会う男性、女性、彼女がいる環境や食べ物から何かを得ます。スポンジのような存在なのです」(公式インタビューより抜粋)
動物的に成長していくベラはスポンジのように吸収してきた数々の体験により、人格形成されていく……。この映画は人間の自立の物語でもあるのかなと思いました。
【エマ・ストーンが素晴らしい!】
このベラを演じるのがエマ・ストーンさん。生まれたときから成人女性のルックスなので、言動でベラの成長プロセスを見せていかなくてはいけないのですが、その変化を緻密な芝居で見せていくエマ、本当に素晴らしかった!
癇癪を起こしていた赤ちゃんベラが、欲にまみれながらも、さまざまな出会いによって経験値を高めていく。そして蘇生する前の壮絶な過去と向き合うことになるのです。すごく “生” のエネルギーに満ち溢れた映画で圧倒されましたし、この感動はエマの名演あってこそ!
本作でアカデミー賞主演女優賞候補になっていますが、まさに受賞に値する圧巻の演技だと思います。
またこの映画は映像、美術、衣装の一体感も素晴らしくて。観客を異世界へ誘い、その世界にどっぷり浸らせてくれるので、芸術的なビジュアルにも大いに期待していただきたいです!
執筆:斎藤 香(c)pouch
Photo:©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『哀れなるものたち』
(2024年1月26日より全国ロードショー)
監督:ヨルゴス・ランティモス
原作:「哀れなるものたち」 アラスター・グレイ著(ハヤカワepi文庫)
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット、スージー・ベンバ、ジェロッド・カーマイケル、キャスリン・ハンター、ヴィッキー・ペッパーダイン、マーガレット・クアリー、ハンナ・シグラ





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