【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、第96回アカデミー賞で作品賞ほか7部門受賞した話題作『オッペンハイマー』(2024年3月29日公開)。第二次世界大戦において、広島・長崎に投下され、多くの死者を出した原爆をオッペンハイマーはなぜ開発したのか。彼を取り巻く多くの人物との関係とともに、その謎を描いていきます。
試写で1回鑑賞したのですが、正直わからず、公開後に再度見にいきました。この作品は観る前にオッペンハイマー情報を入れたほうが楽しめると思うので、キーとなるポイントを挙げながらレビューします。まずは、物語から。
【物語】
1926年、ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィーさん)は英国・ケンブリッジ大学で実験物理学を専攻。その後、ドイツに渡り理論物理学を専攻し、アメリカの大学で教鞭を取るようになります。
その後、キャサリン(愛称 キティ / エミリー・ブラントさん)と結婚し幸せな生活を送ります。しかし、1942年に陸軍のレズリー・グローヴス(マット・デイモンさん)から原子力爆弾に関する極秘プロジェクトへの参加を打診を受け、そこからオッペンハイマーの原爆開発はスタートするのです。
【ポイント①人間関係を把握しておこう!】
とにかく登場人物が多いので、オッペンハイマーを取り巻く重要人物だけでも把握しておくのがベスト。公式サイトに登場人物のプロフィールがあるので、映画を観る前にぜひチェックして。ここでは、特に覚えておきたい重要人物をピックアップします。
ロバート・オッペンハイマー:
天才肌の理論物理学者。原子力爆弾の開発の製造を目的とした「マンハッタン計画」を主導。人当たりはいいものの、自分が興味あること以外はガン無視で人の気持ちを考えられず、無意識のうちに人を傷つけていることも。不倫をしても妻に悪いと思っていない。しかし、広島・長崎の原爆投下後、心に変化が現れる。
キャサリン(キティ)・オッペンハイマー:
生物学者であり植物学者。優秀な学者だけれど、結婚後は育児に疲れてブチ切れ。それでも夫の不倫に耐え、後半は窮地に陥る夫を支えるメンタル最強妻。
ルイス・ストローズ:
アメリカ原子力委員会の委員長。最初はオッペンハイマーを歓迎するが、大衆の面前で彼に恥をかかされて以来、オッペンハイマーの失脚を目論む。野心家で執念深い男。
ほかにも多くの登場人物が原爆開発をするオッペンハイマーに絡んできますが、個人的にはこの3人が印象深いです。特にストローズはオッペンハイマーと対立する人物として要チェック。
【ポイント②カラーとモノクロの映像の秘密】
本作はカラーとモノクロの両方で描かれているのですが、それには理由が! 事前にこれがわかっていれば「何でカラーとモノクロ?」と謎に思わなくていいので頭に入れておいてくださいませ。
カラーの世界:
オッペンハイマーの視点。大学生時代、アメリカの大学の教授時代から原爆開発に関わるようになり、開発を成功させるために全力を注ぐ姿。そして第二次世界大戦を経て、原爆という破壊兵器を作ってしまったことへの恐怖心が描かれます。
モノクロの世界:
ストローズの視点。オッペンハイマーに相手にされず、恨みを募らせるストローズ。第二次世界大戦後、水爆開発を渋るオッペンハイマーを共産党員でソ連のスパイだと聴聞会で証明しようとします。
【ポイント③「赤狩り」「マンハッタン計画」などの用語】
共産主義者と思われる人物を摘発する赤狩り、ソ連とアメリカの関係、マンハッタン計画など、本作にはさまざまな用語が出てきます。
「何の話をしているのかしら?」とならないように、映画の鑑賞前に劇場プログラムを熟読しておくことをオススメします。キーワードになる言葉はプログラムに掲載されていますよ。
【ポイント④意外にもセクシーシーンあり】
色っぽいシーンとは無縁に感じられる映画ですが、意外にもオッペンハイマーと女性の大胆なベッドシーンもあります。
大学教授時代の恋人ジーン・タトロック(フローレンス・ピューさん)とのシーンでは、フローレンスさん大熱演でバストトップも見せています。聴聞会のシーンでも結婚後も愛人だったジーンとの性的なシーンがイメージとして生々しく登場。
色っぽいシーンが唐突に登場するので私はビックリでしたよ。「そういうシーンもあるのね」と事前に知っておくといいかも。
【ポイント⑤広島・長崎への原爆投下のシーン】
本作がアメリカで公開された際、広島・長崎への原爆投下により、その地が破壊されていくシーンが描かれなかったことが日本で話題になりましたよね。「なぜ描かないのか」と。
しかし、この映画はオッペンハイマーの伝記映画。というのも彼自身、広島に原爆が投下されたことをラジオで知ったのです。それ以来、罪悪感に苛まれ焼け焦げていく人々の幻に苦しむシーンもあります。オッペンハイマーが何を感じ、何を思ったのかが重要なのではないかと、私は思います。
【何度も見て理解を深めたい映画】
正直、幸せな気持ちになれる作品ではありません。日本に原爆を落とすか否かの決議では反対意見もあったのに……と思うとやるせない。
とはいえ、オッペンハイマーの脳内に入り込み、無数の粒子のイメージを体感したり、原爆が世界を破壊する兵器であることを知りつつも、開発せずいられない物理学者としての使命感、政府と板挟みになる苦しみを知ったりできたのは良かったのかなと。
キリアン・マーフィーさんの素晴らしい演技によって彼の心を知ることができる映画でした。アカデミー賞主演男優賞も納得です!
でもやっぱり登場人物が多すぎて……私は3回目のおかわり鑑賞もしたいところ。ちなみにIMAXで見ると映像がより鮮明で没入感がすごいのでおすすめです!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:© Universal Pictures. All Rights Reserved.
『オッペンハイマー』
3月29日(金)、全国ロードショー IMAX®劇場 全国50館 同時公開
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラナー、ディラン・アーノルド、デヴィッド・クラムホルツ、マシュー・モディーン、ジェファーソン・ホール、ベニー・サフディ、デヴィッド・ダストマルチャン、トム・コンティ
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
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