[公開直前☆最新シネマ批評]

映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今週のピックアップは、東北大震災の影響でタイトルが『身元不明』から原題『UNKNOWN』のカタカナ表記となった『アンノウン』です。タイトル変更は、大震災で多くの方が被災され、いまだ見つからぬ方もいることから変更することを決定したのではないかと言われています。

しかし、映画の内容は、交通事故にあった主人公(リーアム・ニーソン)が目覚めると、妻も同僚も誰も自分のことを知らないという、身元を奪われた状態に陥り、その謎を解くために奔走するスリラー。監督は、あのどんでん返しにビックリ! の少女スリラー『エスター』で名をあげたジャウム・コレット=セラ監督作です。

この映画はそのスリリングな展開に目を見張りますが、映画全体に重厚な雰囲気を加えているのが1907年に開業した5つ星ホテル・アドロン。

チャップリン、マレーネ・デートリッヒ、アインシュタインも宿泊し、ベルリン映画祭ではスター取材にもよく使用されるここは、第二次世界大戦では戦火を逃れ、そのあと、火災で全焼したけれど、名門ゆえに(?)再建。いまでも昔と同じ輝きを放っているベルリンを代表するホテルです。

そんな通常営業中の名門ホテルに100人余りのスタッフと多くの機材を持ち込んで撮影するのは至難の業。「宿泊客の迷惑にならないようにかなり準備を整えました。でも受付デスクこそ撮影用のものを使いましたが、人の出入りの激しいメインロビー、食堂、階段、地下の厨房は、なぜか撮影許可が降りたんです」と美術担当のブリッドグランド氏。

実はこのホテル、映画とはちょいと縁がある。日本でも大ヒットしたドイツ映画『バグダッド・カフェ』や近作『マーラー 君に捧げるアダージョ』の監督パーシー・アドロンは、このホテル・アドロンの創業者ローレンツォ・アドロンのひ孫なのです。アドロン監督は96年にこのホテルの歴史を扱ったTVドキュメンタリーも制作しています。

ホテルスタッフが映画の撮影にスタッフも驚くほど便宜をはかったのは、そんな背景があったかもしれませんね。

ちなみにこのホテルまわりで爆破シーンを撮影するため、美術スタッフがホテルの外壁に穴を作り付けたり、瓦礫の山を運び込んだりしていると、宿泊客や通行人から「何かの造形美術か?」「作者は誰だ?」と聞かれたそうで。「さすが前衛美術が盛んな都市だ!」とスタッフを感心させたとか。サスペンスにドキドキしつつ、ベルリンロケもたっぷり楽しめる作品になっています。(映画ライター=斎藤 香)

『アンノウン』

2011年5月7日より新宿ピカデリーほか全国にて公開

監督:ジャウム・コレット=セラ

出演:リーアム・ニーソン、ダイアン・クルーガー、ジャニュアリー・ジョーンズ、エイダン・クイン、フランク・ランジェラ、ブルーノ・ガンツ

2011,アメリカ、ドイツ,ワーナー・ブラザース映画

(C)2011 DARK CASTLE HOLDINGS, LLC

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ライタープロフィール:http://bit.ly/hlZYAr