[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは何度もリメイクされた『猿の惑星』の新作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』。「え、また作ったの?」と思われても仕方がありません。この映画で7作目なのですから! オリジナルは猿に人間が支配された未来を描いていますが、最新作は人間が猿を支配している現代を舞台にしています。

アルツハイマーの新薬研究の実験台だった猿。その子猿の脳が薬の影響で活性化され知能を得ていく……その先には! オープニングから10分、畳みかけるようにさまざまな出来事が起こり、物語の世界にクギヅケになってしまう本作。全米でも絶賛レビューの嵐ですが、驚くのは主人公の猿シーザーの存在感。それはジェームズ・フランコのスター性やジョン・リスゴーの演技力も霞んで見えるほどなのです。

映画の猿たちは、俳優の演技に最新映像技術で肉付けしていくパフォーマンス・キャプチャーによって作られています。このデジタル技術を担当したのはWETAデジタル社。

あの『ロード・オブ・ザ・リング』や『アバター』も手掛けたアカデミー受賞歴もあるトップクラスの技術者たちで、彼らはこの映画で新たな技術を開発したのです。それは、パフォーマンス・キャプチャーの装具を屋外に持ち出すこと! これまですべてスタジオ内でないと撮影できなかったのですが、この映画で初めて外に出たのです。

WETAのジョー・レッテリは「この映画は幻想の世界ではなく、動物と現実の日常も描かれているから、猿もロケ地も本物らしく見せないといけなかった」と言い、ダン・レモンは「僕らは初めてパフォーマンス・キャプチャーを直射日光の下で撮影したんだよ!」と、技術の進化に喜びを隠せません。

しかし、『アバター』超えといわれる最新技術もさることながら、この映画の最大の功労者は主人公の猿シーザーを演じたアンディ・サーキスでしょう。『ロード・オブ・ザ・リング』でもパフォーマンス・キャプチャーによりゴラムを熱演したサーキスは、この世界のアーティストと呼ばれるほど、この技術になくてはならない役者となっています。ワイアット監督もサーキスを褒めちぎっています!

「彼は僕らにとってチャーリー・チャップリンのような存在だ。ビジュアル・エフェクトの技術を完全理解できる数少ない役者であり、呼吸や筋肉の動きが映像に与える微妙な影響力も把握しているんだ」

パフォーマンス・キャプチャーへの理解があるからこそ、彼はその技術に持ち前の演技力をどう乗せていけばいいのかわかるのでしょう。

ゆえにサーキスは、原形をとどめない猿のシーザーになっても、飼い主との別れ、理不尽な扱いへの恐怖と怒りなど、猿の心をスクリーンに映し出すことに成功したのです。その熱演は絶賛され、「アカデミー賞に値する演技!」とも言われています。

最新のビジュアルに驚き、人間に支配されていた猿の逆襲にエキサイト! そして映画を見終わったあと、人間よりも猿の気持ちに共感している自分にビックリすること必至です。

(映画ライター=斎藤 香)http://bit.ly/hlZYAr

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』
10月7日公開
監督:ルパート・ワイアット
出演:ジェームズ・フランコ、フリーダ・ピント、ジョン・リスゴー、アンディ・サーキス、トム・フェルトン、ブライアン・コックス

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