先月23日、バンコク中心部での目立った冠水が起きるほんの数日前、バンコク市内のチャオプラヤ川周辺を取材した。

この日の深夜、バンコク市の知事がバンコク全域の冠水警告をするのだが、このときまだ現地(バンコク中心部)の多くの人々は10月いっぱいで洪水は収束に向かうと思っていた。11月2日には、とうとう政府の洪水対策本部が入るバンコク中部の建物まで約1キロに迫っていると報道されている。

さて話を戻すが、いまから2週間ほど前のバンコク市内(王宮周辺)地域はごく一部で冠水している地域もあったが、そのほかの地域は土のうが高く積み上げられてはいるものの、いたって通常通りであった。

とはいえチャオプラヤ川はどんどん水嵩(かさ)を増し、小船の運行は禁止。水上バスや客船など大きな船だけの運行だけが許されていた。だが、豪華客船がネオンをキラキラ輝かせながら優雅に川を行き交う様子は、本当に洪水危機が迫っているのかということを思わず忘れさせてしまう。

そんなふうに悠長に構えていたら、実は既に一部で洪水になっていることを知って驚いた。水上バスの船着場の多くは、すでに冠水。既に閉鎖されている船着場もあるくらいだ。

船着場の前には切符やお土産を売っている建物があり、あらかじめ高い位置に作られていた橋を渡って通ることはできる。それも本格的な洪水になったらあっという間に冠水してしまうだろう。店内は、一面浸水。深さは、大人であれば、ふくらはぎまで浸かるくらいある。

店主たちはいったいどうしているのだろうか。船着場のなかに入ってみると、冠水した店内で流れてきたゴミを掃除をする者、呆然としている者、ショーケースや机の上に座って新聞を読む者、冠水した水で洗濯をする者……。とにかく、もうどうにもならないという感じだったが、焦っている様子は微塵も感じられない。

ほうきを持って入り口から顔を出した男性は、日本語で「大丈夫ですか?」と笑顔で聞いてきた。こちらの心配よりも、自分の心配をしないと……と言うと、ほかのタイ人が「船着場での冠水は、豪雨の度に年に何回かあるので珍しくない」という。だからこそ、少し高い位置に、通路が作られているというわけだ。

船が到着する度に、乗客が降りてくる。もう、毎年の光景に見慣れてしまっているのだろう表情はいたって普通だ。外国人からするとなんだか、とても異様な光景に見える。

このまま水嵩(かさ)が増しませんように……と密かに懇願したが、いまあの場所は通路も冠水していると予想される。一刻も早く、タイの洪水が収束することを願わずにはいられない。

(取材、写真、文=池田廉)

▼普通に降りてくる乗客たち

▼店主たちも、警察も、もはや座り込むことしかできない…だが表情は緩い

▼流れてきたゴミで散乱していた

▼洗濯をしているぞ

▼船着場から船へ行く通路。これまた慣れない者には怖い

▼船着場のレストラン。完全に冠水

▼冠水した船着場。使用禁止

▼再び、同じ船着場。川のなかに家が建っているようなものだ

▼ちなみに建物の近くには、大きい魚がたくさんいた

▼流れ着いたゴミの山

▼日本語で「大丈夫?」と気遣ってくれた。撮影をお願いするとピースまで!

▼高層ビルから下を見ると、子供たちが浅瀬で泳いでいた。病気にならないか心配だ

▼発泡スチロールなどのゴミをビート板代わりにしているらしい

▼並々と流れるチャオプラヤ川

▼様子を見ようと、地元人の見物客が耐えない