[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは本日2月10日公開のミステリー映画『ドラゴン・タトゥーの女』です。40年前の奇妙な事件を追うジャーナリストのミカエルと調査員のリスベットが、ある一族の闇をあぶり出して行く……。強烈なサスペンスと謎解きのカタルシスを味あわせてくれる本作は、09年にスウェーデンで映画化された『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』を『ソーシャル・ネットワーク』のデヴィッド・フィンチャー監督がリメイクしたもの。

公開時は全米で絶賛レビューが溢れ、リスベットを演じたルーニー・マーラは、第84回アカデミー賞主演女優賞候補になりました(発表は2月26日現地時間)。

世界的なベストセラーである原作(三部作合計6000万部以上)は、小説も映画も大ヒットという栄誉を獲得しましたが、実は著者スティーグ・ラーソンはこの世におりません。彼は、2004年、小説のリリース前に心筋梗塞で亡くなってしまったのです。享年50歳でした。

ラーソンは、人種差別に反対するジャーナリストとして活動しながら、趣味で『ミレニアム』シリーズをパートナーの女性とともに書き始めたそうです。ラーソンの構想では十部作だったこのシリーズ。三部まで書きあげ、亡くなる直前まで四部を手掛けていましたが、途中で命を落としてしまったのです……。

ちなみに遺稿となった四部の原稿は、パートナーの女性が所有しているそうです。ラーソンの親族と原稿の引き渡しでもめているとのこと。ラーソンと彼女は結婚していなかったので、印税などすべて親族のものとなりました。

でも彼女が怒っているのは、遺産が入らないからではなく、彼の意思に反する形で出版されているからだとか、原稿を渡して勝手に出版されることを恐れているとか、噂は後を絶ちません。でもすべてラーソンの意思を守りたいという女心……。その意思の強さ、自分の思いを貫く情熱は、ちょっとヒロインのリスベットみたいです。もしかして彼女はモデルだったのかも?

スウェーデンでは二部、三部と映像化されており、ハリウッド版も大ヒットを受けて「二部、三部も映画化か?」と外野は大騒ぎです。デヴィッド・フィンチャー版『ドラゴン・タトゥーの女』は本国のファンもうならせ、特にルーニーの熱演は「リスベット役はオリジナルのノオミ・ラパス以外いない!」と言っていたファンをも黙らせてしまったと言われています。でも二部三部もフィンチャーが監督しないと、ファンは黙っちゃいないでしょうから、おそらく続編はフィンチャー監督の気持ちひとつなのでしょう。

しかし、これほど世界中を熱狂の渦に巻き込んで、パートナーと親族が原稿をめぐって争うことになるとは、ラーソンも予想をしていなかったのでは? 草葉の影でどう思っているのか、ちょっと聞いてみたいものですね。

(映画ライター=斎藤香

『ドラゴン・タトゥーの女』
2月10日公開
監督: デヴィッド・フィンチャー
出演: ダニエル・クレイグ、 ルーニー・マーラ 、クリストファー・プラマー、スティーヴン・バーコフ、ステラン・スカルスガルド、 ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン
(C)Yellow Bird Millennium Rights AB, Nordisk Film, Sveriges Television AB, Film I Vast 2009