[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは『SHAME -シェイム-』。全米公開時「全編ほとんどセックスシーン」「マイケル・ファスベンダーが全裸で熱演」「NC-17指定を受けた(17歳以下は鑑賞できない)過激なセックス描写」などの宣伝文句が並び「どんなにエロい映画なのだろう?」と思っておりました。

しかし、ヴェネチア映画祭では主演ファスベンダーが主演男優賞を受賞し、絶賛レビューも続々寄せられ、映画的クォリティも高いと評判。そんな傑作との噂を聞きつつ鑑賞したところ……なんて美しくて悲しい映画なのだろうと。確かにセックスシーンは多いのですが、情熱的というより、どこか悲しく虚しいのです。

舞台はニューヨーク。主人公はモダンなアパートメントで暮らすビジネスマンですが、彼は仕事以外の時間はセックスに没頭。コールガールを自宅に呼び、ネットでは卑猥なサイトで自慰行為、なんと会社でもエロサイトにアクセス。まさにセックス依存症です。そんな彼の元に妹がやってきます。セックス三昧の日々を邪魔されて、主人公のイライラは募るばかり。でもこの兄妹、なにか秘密がありそうな……。

セックス依存症に苦しむ患者はアメリカだけで2400万人(!!)と言われているそうです。そういえばタイガー・ウッズもセックス依存症という報道がありましたね。アルコール依存症やドラッグ依存症と同じように、苦痛からの逃避や孤独な心を埋めるための手段。満たされない心の隙間に流し込んで行く刺激なのでしょう。受け止めているときは気持ちがいいけど、終わると虚しくなり「もっともっと」とやめられなくなるのです。

主人公の悲しさは、愛を伴わないセックスしかできないということです。コールガールやアダルトサイトならOKでも、愛情を感じると萎えてしまう……。愛とセックスが直結しないのは辛いですよね。だから「なぜだ、なぜなのだ!」と昼夜問わず求めてしまうのでしょう。この人一生このままなのかな……と思うと、気の毒で。

マイケル・ファスベンダーはそんな孤独で壊れかけた男を体当たりで演じています。自慰行為もセックスシーンもこれでもかと登場しますが、すべてのシーンが美しくスタイリッシュに映し出され、エッチなことしているのに芸術的。アート映像を見ているようです。おそらく演出のスティーヴ・マックィーン監督が彫刻と写真を手掛ける芸術家であることも関係あるでしょう。監督にとっては映画も芸術なのだろうと感じさせるシャープな美しさです。

またファスベンダーを「美しく、美しく撮ろう、絶対に汚らしく撮らん!」という監督の熱く強い意志も感じました。もっと言えば「監督ってもしかしてファスベンダーのこと好き?」みたいな……。ふたりがそのような関係かわかりませんが、宣伝担当者に伺ったところ、監督はゲイだそうです。スティーヴ・マックィーン監督の溢れる愛がファスベンダーをキラキラと美しく輝かせている。そんな風にも見られる映画でした。

(映画ライター=斎藤香


『SHAME -シェイム-』
3月10日よりロードショー
監督:スティーヴ・マックィーン
脚本:スティーヴ・マックィーン、アビ・モーガン
出演:マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガンほか
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