かつてチベットで入院するほどの重い高山病を経験したことで、高所に異常なまでの恐怖心を抱いていた登山初心者の記者(メル)。何を血迷ったかこの度Pouch編集部のハトポン隊長(登山暦1回)、オオサカ(初心者)のふたりと共に富士登山をすることに……。
「あたし、ぜったいに高山病になるわー、ならないわけがないわー」とはなから決め付けての登山でしたが、結果を申しますと富士登頂には成功したのであります(ハトポン隊長が山小屋で変な夢を見るなど色々ありましたが、一応目標は達成です)。
体力的にもかなり消耗はしていましたが頂上ではラーメンやカレーや豚汁を腹ペコ3人が争うように食べるなど、おおむね元気満々! 想像以上の開放感と自由と登頂の達成感とで、3人とも終始ハイテンションでしたあーっ!
私たちが登頂にはしゃいでいる一方で、頂上付近では、酸欠と体力消耗のためか座り込んでグッタリしている人が多くみられました。むー、絶景を存分に満喫できないのでは残念すぎる。
登山をスタートした当初は、上を見上げると果てなく続くように見えた急斜面に「8合目くらいまで行ければ良いよね!」なんて言っていた軟弱な私たちが、どうして元気に登ることができたのか。それは私たちが軟弱だったからにほかならないと私は思っております。
というわけで、本日は登頂成功に至った思い当たる理由についてご紹介したいと思います。(富士閉山は8月末のようですが、もし9月中に登山を予定している方はぜひ参考にしてね!)
【元気に富士登頂に成功する秘訣】
(心配性だからこその徹底対策が功を奏したようである)
今回の登山で記者が何よりも心配だったのは高山病。こうして今思い出しても息苦しさを感じるくらいに、登山前も強い不安を抱いていたのです。前回ご紹介した、「登山時の所持品」にもありましたが、酸素ボンベと酸素水は記者のなかでは必須アイテム! 今回元気に登ることができた一番の要因も、「酸素補給」にあるのではないかと思っております。さらに、合言葉は「絶対にムリをしないこと!」でした。
さて、主な注意点は下記のとおり。
・最初から最後までぜったいに走らない(登頂に成功して嬉しくても絶対に走らない)。
・深呼吸をしながらゆっくり歩く。
・大股で歩かない。小股でゆっくりと歩く。
・息があがってきたら少しでも立ち止まって休憩する。
・酸素ボンベなどを使用して、小まめに酸素を補給する。
・マイナス思考に陥らない、動揺しない。平静を維持する。
とにかく呼吸が乱れるようなことをなるだけしないこと! 落ち着いてゆっくり登ることがポイントです。
記者の場合は、登山開始すぐ酸欠症状が出ていたので、小まめに山道で休憩して酸素ボンベを吸っていました。
ところが、この日はあいにくの雨。つけていた手袋は冷たい雨でグッショリと濡れ、指先はかじかむばかり。いちいちザックをおろして酸素ボンベを取り出すのもしんどく、悩んだ末に途中からは、片手に酸素ボンベを持ちながら歩くことにしました。少しでも苦しくなったら歩きながらスパースパーと酸素を吸い、酸素水を飲むという徹底ぶりです。こんなに酸素ボンベを吸っていたのは、周りを見回しても私たちだけだったようです。
とはいえ、知らず知らずのうちに身体が酸欠状態になりうるので、高山病対策を徹底したい方はやはり記者のように酸素補給やペースなどは念を入れるべし。それでも頭痛が出始めたり手足がピリピリとしびれてくることもありますが、焦らずゆっくりと深呼吸をすることを心がけましょう!
【ゆっくりすぎるペースにも注意!? 】
しかも、かな~りゆっくりとしたペースで歩いていたので、後ろから来た登山者にどんどん抜かれてゆく始末……。その遅さといったら、牛歩を通り越してカメ。想定時間6~7時間としていたにもかかわらず、結局私たちは10時間もかけて登ることになるのでした(「須走りコース」は、通常登りに所要する時間およそ7時間~8時間、下山には3時間ほどといわれている)。
しかも、下山をその日のうちにする計画だったので、実はそんなに余裕はないのでした。ちなみに、出発から登頂までの行動は下記のとおり。
(登頂までの時間配分と、主な行動)
■1日目
17時 長距離バスで新宿駅から御殿場駅に到着。タクシーで五合目へ急ぐ。
18時頃 須走り口5合目の山小屋「菊屋」到着 (3人は、出された「しいたけ茶」を堪能。しいたけ茶柱も立っていて幸先が良さそう)
19時 夕食(山小屋でしっかり食事。ちょっとだけ飲んじゃう? といって飲んだビールでほろ酔い気分に)
21時半 就寝 (深夜ハトポン隊長が見知らぬ女性に首をつかまれるという夢を見てうなされる)
■2日目
2時 起床(3時に登山開始予定だったが、激しい雷雨のため様子をみることに)
3時 また布団にヨコになるもほとんど眠れず。
5時 起床(五合目より美しい日の出を見る)
6時 出発
8時 6合目到着(雨に濡れて寒い。山小屋に入ってトン汁とバナナを食べる)
8時半 出発
10時半 7合目到着(雨でびしょぬれになるも、山小屋で食べたラーメンの麺に不満を感じる余裕あり)
11時45分 出発 (雨が上がる。目下に広がる雲に感動するも、登頂できないかも…と思いはじめる一行)
14時頃 8合目到着(空の青はより青く、雲の白はより白く見えるようになる)
16時半頃 頂上に到着~っ!(ラーメン、カレー、トン汁を3人で獣のごとくガツガツ食べる。最高の気分である)
18時頃 下山スタート (まだ頂上にいたい気持ちを抑えつつ下山。21時くらいの五合目到着を目標とする)
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20時頃 闇のなか、ひたすら急斜面を下山
(下山は22時頃かなと予想する、まだ余裕なメンバーたち。一方で体力は刻一刻と消耗しつづける)
(メル足の爪を負傷。さらにペースが落ちる)
(歩けども歩けどもゴールが見えない。あまりの過酷さにメンバー内でめくるめくドラマが繰り広げられる)
(ハトポン隊長が、実は飲み水を持っておらず命の危機だとメンバーに打ち明ける。水を分けてあげる)
(極限状態のまま数時間下山をつづける)
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■3日目
00時過ぎ 5合目到着 (まさかこんなに時間がかかるなんて、とメンバー全員グッタリ。無事に山小屋につけた安堵感と疲労感がハンパない)
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2時頃 御殿場駅付近のホテルに宿泊 (ハトポン隊長の部屋に集まり、お疲れビールを飲みながら反省会。就寝)
以上
【思わぬ落とし穴。下山には特に注意せよ】
登山よりも下山のほうが楽チンだろう、なんて思っていたメンバーたちでしたが、どんなに甘い考えだったかということを身をもって思い知らされました。
私たちは通常3時間といわれているところを、なんと6時間もかけて真っ暗闇の急斜面を下山。歩けども歩けども、ゴールの五合目が見えてこない。ハトポン隊長は水の購入を忘れてまさに命の危機に、メルは登山靴が足に合わなかったようで足のすべての爪を負傷。歩く度に激痛に苛まされる(後日、右親指の爪が取れる)。想像を絶するあまりにも過酷な下山に、自然の厳しさを身をもって思い知ったのであります。
下山が遅くなる場合は、山小屋に泊まれるようであればムリせず頂上付近でステイしたほうが良さそうです。下山中、何度となく「地獄とはまさにこのこと」だと思いました。闇のなか、どこか遠くで鳴り響く雷のとどろき。天を仰げば、雲の合間から見える満点の星空。そして足の激痛。幻想と現実が重なり合い、本当に悪夢のような下山となってしまいました。
でもね、こんなに大変な思いをしたにもかかわらず、なるだけ早めにリベンジしたいなんて思う自分がいるわけです。本当にフシギでなりませぬ。みなさんも暗くなってからの下山はくれぐれも注意してね!
(文=メル凛子/ 写真=Pouchアウトドア部)
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