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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、3月29日公開の映画『アンナ・カレーニナ』です。何度も映画化され、アンナの役は、グレタ・ガルボ、ヴィヴィアン・リー、ソフィー・マルソーなど多くの女優が演じてきました。

悲劇的なヒロインですが、女優としてはアンナ・カレーニナが複雑で悲劇的なほど女優魂を刺激され、演じたくなる役なのかも。だから何度も映画化され、大女優も挑戦してきたのでしょう。そして、新作『アンナ・カレーニナ』のアンナ役はキーラ・ナイトレイです。

19世紀末のロシア。アンナ(キーラ・ナイトレイ)は政府高官カレーニン(ジュード・ロウ)の妻として社交界で注目を浴びる存在でしたが、アンナはモスクワに向かう途中、若き将校ヴロンスキー(アーロン・テイラー=ジョンソン)と出逢い、お互い惹かれあいます。

アンナはその想いを払拭しようとしますが、ヴロンスキーはアンナに情熱をぶつけてきて、二人は遂に一線を越えてしまいます。しかし、この関係はすぐに世間に知られることになり、社交界の花だったアンナの人生は、悲劇へと走り始めてしまうのです……。

恋もろくに知らないまま、カレーニンと結婚したアンナにとって、ある意味ヴロンスキーへのときめきは初恋のようなもの。まるで少女のように「好き」と言う気持ちが止まらなくなります。「ダメダメ」と言いながらも、好きな人が追いかけてくるのですから、そりゃ振り向いてしまうでしょう。夫や子供に後ろ髪がひかれるものの、いままで封印していた情熱が解放され、走り出してしまうのです。そんな情熱のほとばしりが、この恋愛映画の核になっています。

『プライドと偏見』『つぐない』と、キーラ・ナイトレイ主演作で実力を認められてきたジョー・ライト監督は、今回もキーラを美しく撮影していますが、役者と同じくらい比重を置いているのは美術です。アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞したドレスの数々、セット美術も美しく、どのシーンを切り取ってもまるで絵画を見るようです。そして文芸ロマンを得意としてきたライト監督は、今回、これまで見たことのなかったトリッキーな演出を見せます。まるで舞台のようなセットでシーンを切り替えていくのです。

ライト監督が舞台のように物語を展開するという斬新な手法にしたのは、英国人歴史家オーランドー・ファイジスの執筆した書の中に「19世紀のサンクトペテルブルグ貴族は、人生を舞台の上で演じているかのようだった」という記述に目を止めたのがきっかけでした。当時のロシアの人々は、自分たちを西ヨーロッパの人間だと信じ、フランスをまねる芝居をしていたのだという解釈によって、この映画の登場人物に人生のステージを用意したのです。

物語は文豪トルストイの同名小説でクラシックですが、演出は新感覚。このギャップが楽しいです。また、アンナ・カレーニナを始め、社交界の婦人たちのドレスも素敵すぎてウットリ。特に色使いが見事で、どれもこれも高級感溢れ、上品だけどセクシー。舞踏会のシーンなど、ヒラリと舞い上がるドレスの裾まで計算されているかのような美しさで、女子なら誰でも憧れてしまうでしょう。ちなみに舞踏会シーンでキーラが身に着けているのは、シャネルのダイアモンドジュエリーで、お値段は約1億8000万円相当!!

文芸大作というとお堅いイメージがあるかもしれないけど『アンナ・カレーニナ』は、アンナの人生のすべてをかけた愛を描いた濃厚なラブストーリーなのでご安心を。それに世間体を気にする夫も、アンナに言い寄り略奪した愛人も「こういう男、今もいるな」とつい思ってしまいましたからね。ある意味愛は時代を超えるという……。「こういう男に気をつけなくっちゃ」と思いながら(!?)『アンナ・カレーニナ』を楽しんでください。

(映画ライター斎藤香)

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『アンナ・カレーニナ』
2013年3月29日公開
監督:ジョー・ライト
出演:キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウ、アーロン・テイラー=ジョンソン、ケリー・マクドナルド、マシュー・マクファディン、ドーナル・グリーソン、ルース・ウィルソン、
アリシア・ヴィキャンデル、オリヴィア・ウィリアムズ、エミリー・ワトソン、カーラ・デルヴィーニュほか
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