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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップしたのは全米の映画祭で観客賞を数多く受賞した映画『チョコレートドーナツ』(4月19日公開)です。ゲイのカップルとダウン症の少年の交流を描いた物語は、シンプルながら、差別や社会問題もサラリと浮き彫りにしつつ、じんわり感動! 清らかな心を持った人たちを描いた作品です。

【物語】

1979年カルフォルニア。歌手を目指すダンサーのルディ(アラン・カミング)の住むアパート内で、大音量の音楽が聞こえてきます。あまりの騒音に怒ったルディがその部屋に入ると、そこには母の帰りを待つマルコ(アイザック・レイヴァ)がいました。マルコはダウン症の少年。そして彼の母は薬物依存で逮捕されてしまったのです。

ルディには検事の恋人ポール(ギャレット・ディラハント)がおり、話し合ってふたりはマルコと暮らすことに。仲の良い3人家族のように笑いの絶えない家庭だったけれど、ある日、マルコは家庭局に連れ去られてしまい……。

【愛情ある人たちの絆が差別で引き裂かれる】

ゲイのカップルとダウン症の子供の物語は、シンプルだけれど様々な問題をはらんだ映画です。そのまま見守ってあげれば、3人は仲の良い家族として幸福に暮らせたはずなのに、ルディたちがゲイであることを隠していたためにマルコを奪われてしまうのです。

取り戻そうとする裁判ではハロウインの仮装をしただけなのに、ルディはマルコの前で女装をしたと問題視されてしまうなど差別をむき出しにして、なかには、いいがかりのようにしか聞こえない証言もあります。でもそれが裁判。最初から色眼鏡で見られているルディたちは不利なのです。時代は70年代、ゲイカップルを見る目は今より厳しかったでしょう。ポールが検事局の上司に嫌がらせをされるのも、それが原因だろうし。時代が生んだ悲劇ともいえるかもしれません。

幸福だったのに、ひとつの不幸が連鎖していき、3人の理想的な関係が崩れていってしまう様を見るのは本当に悲しい。人とは違うマイノリティだからと、その幸福を奪う権利は何者にもないはず。しかもルディもポールもマルコも何も悪いことしていない、思いやりを持って関係を築いてきたのに……と、なんかもうやるせない気持ちになり、これ書きながらも涙腺崩壊しそうですよ。

【ゲイが養子をもらうことの困難について】

トラヴィス・ファイン監督は良質なシナリオを探している時に、この脚本に出逢いました。

「この映画は脚本を執筆したジョージ・アーサー・ブルームが体験した実話をベースにしているんだ。かつて彼の住むアパートにルディのモデルになった人がいて、障害を抱えた子供もいてね。その母親は薬物依存症で、ジョージはふたりの関係を見てフィクションとして脚本化したんだよ。完成した脚本はいろんなスターや映画関係者が映画化を試みたけど、結局実現しなかった。そして20年後、ジョージの息子と知り合いだったことがきっかけで、この脚本が僕のところに来たってわけ」

20年前の脚本とは驚きですが、この映画は古さを感じません。それは、人種、男女、国境、時代を超えた悩みが描かれているからでしょう。

「この映画の悩みは、誰もが経験する普遍的な悩みだ。愛する子供を意に反して取り上げられた者が感じる、誰もが感じる痛みなんだよ」

確かに! また監督は、現実にゲイのカップルで養子を育てている人たちは約100万人いるとも語っています。

「養子を望んでいるゲイのカップルはその倍はいるよ。彼らが安心で安全な家庭を持ち、精神的にも安定し、子供に深い愛情を注げるのなら、そういうカップルが子供を持つことを許すべきなんだ」

【子供を育てるのは紛れもなく愛情】

マルコのように、ほぼネグレストのような家庭で孤独を抱えて暮らすのならば、他人でも愛情をしっかり注いでくれる人と家族になる方がいいはず。そのことがわかっていたなら、あんな不幸は起こらなかった……。正しい判断をするのは難しいことだけれど、真実を見る目をしっかり持たないと、自分だけでなく他人も不幸にしてしまうとつくづく感じましたね。思いやり、愛情の本質を見せてくれる映画です。

執筆=斎藤 香(c)Pouch

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『チョコレートドーナツ』
2014年4月19日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督: トラヴィス・ファイン
出演: アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイヴァ、フランシス・フィッシャー、グレッグ・ヘンリー、クリス・マルケイ、ドン・フランクリンほか
(C)2012 FAMLEEFILM, LLC