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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、ハリウッドの御大クリント・イーストウッド監督の最新作『ジャージー・ボーイズ』です。「誰?」「何のグループ?」と思っている人も多いでしょう。これは同名タイトルのブロードウェイミュージカルの映画化作品で、ザ・ビートルズ以前に音楽業界を席巻したザ・フォー・シーズンズという実在した4人組の物語。名前は知らなくても曲を聞けば「あ、これ知ってる」という曲がいっぱいあります。

特に「君の瞳に恋してる」は超有名で、MISIA、三代目J Soul Brothers、少女時代などがカバーしているほど。そのザ・フォー・シーズンズの光と影を描いて号泣させる映画、それが『ジャージー・ボーイズ』なのです。

【物語】

ニュージャージー州のペルヴィルはイタリア移民が集まる街。16歳のフランキー(ジョン・ロイド・ヤング)は、奇跡の歌声の持ち主だけれど、この街で歌手としての成功を望んでも術がありません。

せこい犯罪に手を染めていたトミー(ヴィンセント・ピアッツァ)とニック(マイケル・ロメンダ)のバンド仲間になったフランキー。やがて3人は若くして成功していたボブ(エリック・バーゲン)と出会い、フランキー、トミー、ニック、ボブはザ・フォー・シーズンズとしての活動を開始します。バックコーラスの仕事から始め、「シェリー」のヒットでスターへ。しかし、成功を手にした彼らの歯車は狂い始め、やがて転落していくのです。

【4人の男たちの友情と確執のリアル】

この4人のスターたちの物語はよくある話です。ドン底からスターになり、成功したのちに落ちてゆく……。その理由はメンバー間の嫉妬や方向性の違いという、日本の芸能界でもありがちなものです。でもそこはさすが巨匠イーストウッド監督、見せ方やキャラクターの描き方がうまく、いつの間にか彼らの心に寄り添ってしまうのです。

前半、不良たちはとても成功しそうに見えないけれど、そんななか、一筋の光のように輝くフランキーの声。その声とボブの音楽センスがチャンスを作り、彼らの人生のエンジンがかかります。4人それぞれの事情を彼らの言葉で語らせる演出は心情をわかりやすく映し出し、フランキー中心に映画は回りますが、4人が抱いている想い、関係性の変化もしっかり伝わります。

なかでも共感度が高いのは、一番地味なニック。自己主張をしないため、グループに重要な問題が起こっても、いつも蚊帳の外。「俺はいてもいなくてもいい男だ」と自信をなくしてしまいます。その寂しさ、惨めさはリアルでわかり過ぎるほど。一番普通でいい人だったせいで傷つけられてしまう。その姿には胸が痛くなりましたよ。

そして何といっても圧巻なのは、4人の濃厚なエピソードの間に挟まれるザ・フォー・シーズンズの名曲の数々。「君の瞳に恋してる」は後半のハイライト。この曲の背景にこんなエピソードがあったとは! 記者は泣きすぎて、試写室から退室するのが恥ずかしかったほどです。

【歌唱シーンはLIVEで撮影】

この映画のキャストの名前を見て、誰だかわかる人は相当なミュージカル通でしょう。ザ・フォー・シーズンズの4人のうち、3人は同舞台でも同じ役を演じた俳優です。フランキーを演じたジョン・ロイド・ヤングはこの舞台でトニー賞を始め各賞を受賞。ゆえに、この映画の歌のシーンが録音ではなく、彼らが生で歌うのは自然なことだったのです。イーストウッド監督はこう語っています。

「彼らのほとんどが数えきれないほど生で歌った経験がある以上、その方が自然な流れだった。実際に歌うのを観て、聴くと、その素晴らしさがわかるし、感情の機微もよくわかる」

そしてジョン・ロイド・ヤングは舞台では有名でも映画界では新人俳優。彼は映画の撮影で歌ったことについてこう語っています。

「僕は最初、映画ではカメラの前で歌うことが例外的だってことに気付かなかったんだ。でもクリントは音楽を愛している人。あの伝説の監督が、僕らの歌をうっとり聴き入っているのを見るのはすごくいい気分だったな。最高だった」

映画の挿入歌はどれも名曲、4人のコーラスは最高です! フランキーのボーカルも素敵ですが、ニックの低音ボイスもズシンと響いていいんですよ~。ちなみに俳優が生で歌ったのを撮影する手法は『レ・ミゼラブル』でもやっていますね。

2014年の賞レースに上がってきそうなクリント・イーストウッド監督作『ジャージー・ボーイズ』。1960年代のスーパーグループの歌唱に酔いながら、不良少年だった4人の成功と挫折と友情に思いっ切り泣いてください。
執筆=斎藤 香(c)Pouch
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監督:クリント・イーストウッド
製作:グレアム・キング
キャスト:ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ロメンダ、ビンセント・ピアッツァ、クリストファー・ウォーケン
(c)2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC ENTERTAINMENT