【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは映画『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』(2020年3月6日公開)です。東日本大震災で起こった福島第一原子力発電所の事故。放射能を食い止めようと必死に立ち向かった福島第一原発の吉田所長はじめスタッフたちの事実をベースにした物語は、3.11の大震災を忘れないためにも観ておきたい作品です。
ちなみにタイトルの「Fukushima 50」というのは、暴走する原発に立ち向かった人々を海外メディアがそう称えて付けたことに由来しています。では物語から。
【物語】
2011年3月11日、マグニチュード9.0、最大震度7という大地震が起こり、福島第一原子力発電所が津波に襲われました。原子力の冷却装置が作動しなくなり、最悪の場合、核燃料が原子炉の外に漏れてしまうという事態に。
大規模な放射能汚染を止めなくてはならない。福島第一原発の吉田所長(渡辺謙)と福島第一原発1・2号機の当直長・伊崎(佐藤浩市)と原発で働くスタッフは、電気が通らないため、手動でベント(原子炉圧力容器内の圧力が急上昇した際の内部蒸気の放出)しなければならなくなるのです。
時間はないが慎重に行わなくてはならないと吉田所長と伊崎が進める中、1号機原子炉が爆発してしまう……。
【福島第一原発で何が起こったのか】
東日本大震災のとき、皆さんはどうしていましたか?
この映画の津波の映像は嫌でもあの日を思い出させます。流れていく家、車、町を飲み込む津波……。
あの日、報道で見て驚愕した映像がスクリーンに広がり、誰もが本作を観ると、3.11のことを思い出すのではないかと思います。そして地震と津波だけでなく、福島第一原発の事故は、世界を震撼させました。あのとき福島第一原発内部では何が起こっていたのか……。それを描いたのが本作『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』です。
【原発現場のボス佐藤浩市とすべての指揮をとる所長の渡辺謙が作品の要】
主演は佐藤浩市さんと渡辺謙さん。原発の中央制御室のボスの伊崎が佐藤さんで、緊急時対策室で指揮を執る東京電力の吉田所長が渡辺さん。
伊崎は現場の状況を誰よりも知っている人物で何をすべきかを判断し、吉田所長は最終的な決断を下す役割。吉田所長はメディアにも多く登場した実在の人物なのでご存じの方も多いでしょう。東電本社や官邸との調整役として働きましたが、現場と本社の意志の疎通がスムーズにできなくて、吉田所長は何度もブチ切れていました。
ほとんど内部の映像なので、演出としては舞台に近いかもしれません。災害シーンはショッキングですし、原発現場での作業シーンなどハラハラしますが、アクション映画ではないので、役者はかなりの力量が求められ、言葉に説得力も必要です。ゆえに演技派がズラリ。そういう面でも見応えがあります。
【福島第一原発内部は緊迫したシーンの連続】
本作はとにかく最初から最後まで危機の連続。津波が町を飲み込んだと思ったら、今度は原発の事故が起こり、放射能汚染が世界を恐怖に陥れます。私たちがニュースを見ながら「大変なことに。どうなっちゃうんだろう」と恐怖を感じているとき、福島原発内部では、作業員の方たちが決死の覚悟で食い止めようと闘っていたのです。
当時、報道でも彼らの行動は伝えられていましたが、映像で見ると違いますね。観ている方も現場にいるような感覚になり、正直「作業員の方も逃げたほうがいいのではないか」とも思いましたが、でも原発はどうしたら……と、脳内でいろんな考えがグルグルまわり……。それくらい切迫した状況だったのだなと改めて思いました。
【今こそ見るべき映画】
映画『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』は、「事実と違う」「国のために命がけという行為を美化していいのか」など様々な感想が飛び交う映画です。内容について納得できないという人もいるかもしれませんが、『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』が制作された大きな理由のひとつは「東日本大震災を忘れてはいけない」というところにあります。
あの大地震で多くの人が犠牲になったこと、復興は終わっていないこと、問題は山積みです。時間と共に風化していきそうなところ、こういう映画が気づかせてくれるのではないでしょうか。
執筆:斎藤 香 (c)Pouch
『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』
(2020年3月6日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:若松節朗
出演:佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、安田成美、緒形直人、火野正平、萩原聖人、平田満、堀部圭亮、佐野史郎、吉岡里帆、富田靖子、斎藤工ほか
(C)2020『Fukushima 50』製作委員会
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