この世界にあふれる、「難」と「福」。どちらもたしかに存在するのが現実であり、目をそらさずに見つめる必要があるのだろう。

そんな気持ちを抱かせてくれる展覧会、画家の田中武さんによる「NAN-PUK」が、2017年9月6日から25日まで東京・日本橋タカシマヤ6階で開催されています。

こちらの展覧会にずらりと並ぶのは、田中さんが得意とする、現代の世相をチクリと風刺した作品の数々。

円山応挙『七難七福図』からインスピレーションを得て、現代人が抱える数々の「難」と「福」を表現した約30点の新作が、一堂に会しています。

【『七難七福図』ってなあに?】

1768年に描かれた『七難七福図』は、経典に説かれる七難と七福がリアルに描かれた絵巻。応挙の代表作の1つと言えます。

田中さんのブログによると、七難七福とは「七難即滅 七副即生」のこと。これは「多くの災難があるけれど、それは多くの福徳に転ずるという転禍為福の考え」で、難を表す「天災巻」と「人災巻」、福を表す「福寿巻」の3巻で構成されているのだそうです。

【大作『斉唱~神7の唄~』は必見】

田中さんの作品にも「難」と「福」が描かれていますが、応挙の『七難七福図』から感じる恐怖感や幸福感より、「難」と「福」がただありのままそこにあるといった印象を受けるんです。

最大の注目作は黒い土嚢袋の上で歌う7人の女性が描かれた『斉唱~神7の唄~』。小磯良平『斉唱』や日本二十六聖人記念碑『昇天のいのり』をベースにして描いたという縦2.8×横3.6mにもおよぶ大作です。

【女性たちの足元にあるのは…?】

袋の中に入っているのは、福島などに広がりつつある汚染処理土。田中さんは自身のブログで、こちらの作品に対し次のように語っていました。

「この作品を以てして『原発は悪だ!』とか、ましてや『善だ!』などと言いたいのではなく、この原発に囲まれた世界、そしてそこで生み出された “難” と “福” を受け入れながら、生きていかなければならない現状と覚悟を表現したいと考えたのです」

どんなところにも難福は存在するし、それを絵画として表現することが自分の仕事、と綴っていた田中さん。

日本橋タカシマヤでの展示終了後、10月4日〜16日には新宿タカシマヤ10階でも展示が行われるそうです。気づけば季節は、芸術の秋。田中さんならではな独自の世界観を肌で感じることができる展覧会に、出かけてみてはいかがでしょうか。

参照元:プレスリリースtakeshi-tanaka.net田中武 ブログTwitter @stkstnk
執筆=田端あんじ (c)Pouch