【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、関ジャニ∞の大倉忠義と成田凌が主演する映画『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年9月11日公開)です。水城せとなの同名漫画を、山﨑賢人主演映画『劇場』などの行定勲監督が映画化。新型コロナ感染症拡大により公開が延期されていましたが、ついに公開されました。

で、一足お先に鑑賞させていただいたのでご紹介します。

【物語】

大伴恭一(大倉忠義)は、7年ぶりに大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)に再会。今ヶ瀬は興信所に勤務しており、偶然、大伴のことを調査する依頼を受けていたのです。

調査で明らかになったのは、既婚者である大伴の不倫。証拠写真を見せられた大伴は隠してほしいと懇願しますが、今ヶ瀬は交換条件を出してきます。

彼は大伴をホテルに誘い「好きだ」と告白。大伴はキスまで受けいれますが、二人の関係はそれだけでは終わらなかったのです。

【今ヶ瀬を完全に自分のものにした成田凌の底力】

結論から言いますと、素晴らしかったです!!! 主演のふたり、大倉忠義さんと成田凌さんの相性が抜群によく、観客を作品の世界にのめり込ませる二人のパワーには、誰も抗えません!

成田さん演じる今ヶ瀬は一途に大伴を愛する後輩ですが、愛する男は異性愛者であるにかかわらず、自分のペースで唇から体へと関係を深めていくのです。特に今ヶ瀬は、大伴の本心を見抜く観察眼が鋭いため、言葉攻めで落としていくところがあり、二人だけのシーンはゾクゾクとドキドキが止まりません。

大伴への思いが溢れて止まらない今ヶ瀬は、大伴の部屋着や下着を身に付けたり、携帯の履歴を勝手に見たりする困った男ですが、彼への愛情と執着心からくる行動は妙に納得させられてしまうんです。

これは今ヶ瀬を完全に自分のものしている成田凌さんの演技力の賜物。すごく良かったです。

【関ジャニ∞の枠を飛び越えた大倉忠義の新世界】

本作でいちばん驚いたのは大倉忠義さんです。

数々のドラマや映画に出演されてきましたが、本作は役者・大倉忠義の力を決定づけた作品になるのではないでしょうか。それくらい衝撃的でした。

大伴はとにかく流されてしまう男で、女性から誘われれば簡単に体を重ねてしまいます。それが不倫だとわかっていても「相手から言い寄られて」と言い訳をするズルイ男。加えて、女性に対して「私に興味あるのかな」と思わせるような言動を自然にとれる男なんです。

そんな彼が、大伴への愛情過多な今ヶ瀬に出会い、最初は「キスだけだぞ」とくぎを刺すものの、どんどん体の関係へと進んでいく。とまどいながらも「体だけでな心も持っていかれているな」というのがわかるんです。

また成田さんや浮気相手とのラブシーンはフルヌードで挑戦しており、かなり生々しく、ジャニーズのアイドルの枠を思いきり飛び越えた演技に驚きました。大倉さんは35歳なのでアイドルという年齢ではないかもしれませんが、ここまで挑戦するのは並大抵の決心ではないと思います。今後、大倉さんの役者としての活動が楽しみでならない! そう思える熱演でした。

【女優陣では「ゲスの極み乙女」さとうほなみの怪演が光る】

女子的には大伴と女性たちとの関係も興味深いです。かわいい奥さん、不倫関係が断ち切れない浮気相手、気の強い元カノ、純情な上司のお嬢様などタイプはバラバラで、大伴は心が伴っていないからこそ、さまざまな女性に適応できるのかなと感じました。

個人的に好きだったのは「ゲスの極み乙女」のさとうほなみさんが演じる元カノ・夏生。彼女は大伴と今ヶ瀬の関係に気づくんです。

夏生と今ヶ瀬が火花を散らずレストランのシーンは良かったですね~。今ヶ瀬が待つ店にやってきた夏生の第一声「ヤダ、怖~い。粘着質なゲイに呼び出されて~」に「ビッグファイトのゴングが鳴った!」とワクワク。

そのあと大伴も同席して、彼の取り合いが始まるんですが、言葉と態度が裏腹の大伴がなんか滑稽で見えてニヤニヤしちゃいましたよ。大伴×今ケ瀬×夏生のシーンがいちばん躍動感あるエピソードだったと思います。

ラストシーンも個人的には納得できて、すみずみまでとてもいい映画でした。

男女だろうが男同士だろうが、心が奪われて恋に落ちていくことに変わりわないこと、艶っぽい関係の積み重ねもあって大伴と今ヶ瀬の愛は築かれていったんだなあと。大倉さんと成田さんの名演をぜひこの機会にスクリーンでご覧ください!

執筆:斎藤 香(c)Pouch

窮鼠はチーズの夢を見る
(2020年9月10日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー)
原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」刊)
監督:行定勲
出演:大倉忠義、 成田 凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子ほか

(c)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会