【連載:私がイモムシから蝶になるまで】
メイクは頑張ろうと思ってもすぐ上手くいくわけではなく、トライ・アンド・エラーの繰り返し。さらに思春期ならではの自意識、社会人としてのマナーメイク、そして恋愛という要素も絡んでさらに複雑に……。今回は梶本さんのメイク迷走期のお話です。
幼稚園の年中から成長のとどまるところを知らなかった私は高校に入学したころには174cmになっていた。
高校時代はバスケに夢中で、軽音部の女の子がビューラーでまつげを上げているのを見て「自分の底上げに必死やんw」とあざ笑いながらスクワットをしていた私。
メイクはしょせん偽りで、大事なのは元の自分。偽りの自分を金や手間暇をかけて作り上げるなんてナンセンスだと思っていた。
今考えれば、そこからもう差がついていたのだ。
【ブスの言い訳】
同世代の女子達は大学進学で思い切りオシャレを楽しみ、どんどん垢抜けていく。
私は専門学校の女子9:男子1という特殊な閉鎖空間の中、『地味こそ正義』という固定観念をすくすく育てていった。
メイクによる肌の負担や化粧品の高さを知るたびに、どうして今の自分を犠牲にしてまで外見を良く見せたいのか不思議でならなかった。
安産型の体型に惚れ込まれ、初めての彼氏が出来た私はすっかり天狗になっていた。
「モテたいとも思わんし、世の中はハートが全てなんよ」
うるせー。
見た目は洒落(しゃれ)てないのに言動だけは洒落臭(しゃらくさ)い。
そんなことを言いながら、自分は夏も日焼け止めを塗らず毎日ピザポテトを食ってできた吹き出物を指で潰していた。心身ともにブスの権化である。
【礼儀としてのメイクに困惑】
専門学校卒業とともに夢だった看護師という職に就けたこと、そして何より仕事中は指定の白衣を着ていればいいということに私は浮かれ腐った。
しかし、ひとつの問題にぶち当たる。
社会人ってメイクするのが常識っぽくね?
私は急いで母に緊急メイク講習を開いてもらった。
母の化粧ポーチに入っていたのは黒のアイブロウペンシル、ケイトのジェルライナー、プリマビスタの下地とファンデーション、当時佐々木希がCMをやっていたAUBEのチークetc…。
「マスカラが乾かないうちにビューラーをして、マスカラが乾けばカールしたまま固まる」
母の言うとおりやってみるが、上手くいかない。渡されたビューラーにはマスカラがこびりついて、ほら穴の入り口みたいになっていた。
お母さん、これ防空壕じゃないよね?
そう、母も化粧が上手い方ではなかったのである。
【コンプレックスとメイク修行】
看護師として働く中で、あのコンプレックスが私の心を再びつつき始める。
「あの背の高い看護師さんは怖い」
今思えば仕事の要領が悪い私が粗暴な態度になり、その様子が患者さんに恐怖心を与えた結果でもあったのだが、当時は経験も浅く必死だった。
白衣の天使は優しく朗らかでいるべき。なのに私の身体がデカくて顔がキツいのが悪い! 今こそ顔面を偽る時だ!
メイクへの偏見を持ったままメイク修行期に突入する。
当時全盛期だったモデルや女優を参考にしようとしても年代や系統がまちまち過ぎる。
益若つばさ、佐々木希、蛯原友里…。
『エビちゃん顔になりたい!』みたいなアオリが載った雑誌を購入し、メイクをしてみるも全く納得いかず。「そもそも私とエビちゃんじゃ顔が違くない?」と身も蓋もない台詞でカチ切れながらキャンメイクのアイシャドウを虚空にトスした。
なるべく優しい印象に見えるよう眉は下げ、マスカラは強調しすぎないブラウンに。チークはオレンジで快活なイメージにして、前髪は重めにカットし幼さを演出した。
何が正解なのかわからないまま過ごす日々。ちょっと上手な福笑いみたいな顔の日もあった。
【恋は着火剤、しかし…】
国家試験の時に初めての彼氏と別れ、就職と同時に恋活にもクラウチングスタートをキメていた私は同期のオタク男子に熱烈な恋をした。
自分の部署に行こうとエレベーターに乗り、気がつけば彼の部署の階のボタンを押していた。病気である。
恋に関しては「ガンガンいこうぜ」一択の勇者だった私は、ふたりきりの飲み会を経てファーストデートの約束まで取り付けた。我ながら会心の流れ技。
絶対に彼のハートを射止めたかった私は、それはそれは気合を入れてオシャレした。
そうして迎えたデート当日。
絵に描いたような清純派武装。
シフォン袖のレースブラウスに膝上スカート、靴はピンクのエナメルパンプスを合わせている。
瞳孔がかっ開き、完全に獲物を捕る目である。
心電図を模したネックレスで相手への好意を密かにアピールしている。
髪も内巻きにし、耳にかけたサイドにはハートのヘアピンがついている。
全身ブリブリのくせにクマが凄い。ほとんど寝れなかった上にコンシーラーの扱い方を知らなかったのである。
デートの結果は撃沈。もともとひとりが好きだという彼のお眼鏡に叶わなかっただけとも言えるが、彼の魅力に肩までどっぷり浸かっていた私は少なからずショックを受けた。
やっぱり化粧もオシャレも私に下駄を履かせてはくれない。努力して期待して裏切られるのはもう沢山。
仕事でも駆け回り、ドロドロになった顔とマスクについた汚いファンデーションを見た私は我に返った。
やっぱり私にこういうのは向いてない。結局すっぴんキャラが一番楽だ!
こうして私は平気ですっぴんで出勤するようになり、ファッションを追求することも辞めてしまったのだった。
次回、パーソナルカラー診断との運命の出会い!「私、今まで逆走してた!?」「なんだ、私ってイケてるんじゃん!」など、新しいワタシデビューしまくりでお届けする予定!
執筆・撮影:梶本時代 (c)Pouch
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