【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは韓国ホラーアニメーション映画『整形水』(2021年9月23日公開)です。

原作は、オムニバス形式のスリラーマンガとして人気の『奇々怪々』内の1編「整形水」(作者名:Osd/LINEマンガで配信中)。

ホラーですが、その内容には外見至上主義の現代がもたらす問題も抱えているような気がしました。

韓国のアニメーションは初めて観たのですが、内容がエグくて面白かったです。では物語から。

【物語】

容姿にコンプレックスを抱いたまま大人になったイェジは、人気タレント・ミリのメイク担当をしています。ある日、ミリの出演する番組でタレントの代役をすることになったイェジ。ひたすら食事をするシーンでしたが、番組を見た視聴者からSNSで容姿への中傷コメントが殺到。イェジは深く傷ついてしまいます。

そんな彼女のもとに「整形水」のサンプルが送られてきました。使用してみると効果があり、さっそく「全身整形したい!」と思ったイェジは、親を説得して大金で全身整形。美しい肢体を手に入れ、ソレとして生きることに。しかし、それが破滅へのスタートでした……。

【美容整形がもたらすデメリットを映画化】

美容整形は、ルックスのコンプレックスを克服できる方法のひとつとして、日本でも身近になっています。

たしかに「コンプレックスの克服」というメリットはあるのですが、デメリットもあり、それは人間の欲望には終わりがないことです。

自分でどこか線を引かないと「もっともっと」と暴走してしまう。それがこの映画のヒロインのイェジです。

【整形水で人生を変えようとしたイェジ】

イェジは幼い頃、バレリーナとしての才能を認められながらも、容姿のせいでコンクールでも優勝を手に入れることができないという屈辱を味わってきました。

たびたび容姿をいじられることでストレスを抱え、暴飲暴食してしまい、ますます体型が大きくなっていきます。ところが、「整形水」で100%容姿が美しくなることがわかるや、みじめな人生を変えようと、整形にすがりつくんですね。

【ちょっとの崩れも気になったら闇の始まり】

最初の全身整形で美女になり、ソレとして生きていくことにしたイェジ。「オシャレな服も着こなせる!」とお買い物をするソレは楽しそう。でもそこで止めておけばいいものを、肉体のちょっとした崩れが気になってしまい、整形水で修正しようとするんです。

整形水のお風呂は20分以上入ると皮膚が溶けてしまうのですが、なんとイェジはミスをしてしまい、顔と体が大変なことに!!!  少し太ったくらいなんてことないのに、完璧な美女になったからこそ、ささいなことがイジョーに気になってしまうのです。

【整形のホラー描写がエグい】

整形は皮膚にメスを入れるわけですから、血は流れるし、皮膚はめくれるし、直視できるものではありません。でもこの映画は、整形水の施術シーンでそのエグイ部分を観客に見せていくのです!

整形水につかった肉は、はがしやすく、太っていたイェジの贅肉をベリベリ~とはがしていく。その描写がアニメーションとはいえ、も~気持ち悪くて気持ち悪くて……。

【整形美に執着するイェジは身近な幸福に気づかない】

加えて、2度目の整形水の使用に失敗したイェジの顔と体は壮絶で、肉が剥がれ落ちて骸骨化し、そんな姿で「肉がほしい」と言われても……。

でも両親は、愛する娘のために行動に移すのです。お父さんとお母さんの献身的な姿には同情してしまうほど。

愛情深い両親に育てられ、イェジは幸せじゃないかと思うのですが、もともと親に依存した生活をしていた上に美に執着している彼女は、身近な幸せに気づかないのです。

【ラストは狂気が炸裂!】

後半は、イェジが恋するイケメン俳優ジフンが存在感を発揮。彼は、整形水を使う前のイェジを「瞳がきれいだね」と褒めたたえます。

このジフンの言葉が伏線になり、後半、怒涛の展開へと突っ走っていくのですが、あまりの狂気っぷりにビックリ! その世界観は、日本の恐怖漫画の御大・楳図かずお先生の世界に近いような気がしました。

ゾクゾクする刺激をお求めの方は観てみてください!

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

整形水
(2021年9月23日より、シネマート新宿ほか全国ロードショー)
監督:チョ・ギョンフン
声の出演(日本語吹替え版):沢城みゆき、諏訪部順一、上坂すみれ、日野聡