【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは『大怪獣のあとしまつ』(2022年2月4日公開)です。

前提としては “人類を恐怖に陥れた巨大怪獣が死んだらどうやって片づける?” という物語ですが……本作を観た人の間では賛否両論で話題に。では物語からご紹介します。

【物語】

大怪獣が倒れて、人類には平和が戻ってきました。しかし、怪獣の死体は腐敗して悪臭を放ち、爆発する可能性も! この怪獣を放置したままにできません。そこで政府は首相管轄組織「特務隊」に死体処理の任務を課します。

特務隊のアラタ(山田涼介)はさっそく任務に取り掛かりますが、このミッションにはアラタの元恋人で、現在は総理の秘書官(濱田岳)の妻・ユキノ(土屋太鳳)が環境大臣の秘書官として関わっていました……。

【ブラックコメディになるはずだった?】

邦画史上最大スケールによる大怪獣の造形など、特撮チームは日本トップクラスなので、ヴィジュアルは最高! ゆえに「これをどう片づけるの?」とワクワクしながら観たのですが……この任務を指揮する政府がダメダメでした。

政治家たちの思惑が入り乱れて対立を生んでいく展開はいいのですが、それらがすべて子どもの喧嘩みたいなんですよ。政治家たちの茶番劇をブラックコメディとして描こうとしたのかもしれませんが、人の言葉尻をとらえたり、顔の特徴を笑ったりするギャグや下ネタの連発では、政府を風刺するユーモアにはならず……。

政府関係者には、西田敏行、岩松了、菊地凛子、ふせえりなど演技巧者が出演しているのに、個人的には「もったいない!」とも思ってしまいました。

【アイドルとしての輝きを失わなかった山田涼介】

と、ちょっと辛口になってしまいましたが、山田涼介さんのファンの方は安心していただきたい。山田さんはベタなギャグの連発に流されず、大怪獣をあとしまつする任務に徹したアラタを硬派に演じ切り、本当にかっこよかったです!

だから、土屋太鳳さん演じる元恋人ユキノが、アラタに未練を残しているのも理解できる! ユキノは人妻なので、彼女の思いに応えられないけど、アラタが彼女のことを大切に思っていることは伝わってくるし、2人のキュンシーンはこの映画の最大の魅力。山田さんのイケメンぶりはしっかり堪能できます。

【怪獣処理だけでなく、映画も救った3人の力】

ちなみにユキノ演じる土屋太鳳さんの他に元・特務隊のブルースを演じたオダギリジョーさんも良かったです。お笑い要素がほとんどなく、任務に真摯に立ち向かったキャラクターを演じた3人は、本作を救う力を放っていました。

なんだかんだ言われている作品ですが、賛否両論あるのは悪いことじゃないと思うんですよね。ぜひその目で確かめてほしいと思います。

執筆:斎藤 香(c)Pouch

『大怪獣のあとしまつ』
(2022年2月4日 全国ロードショー)
監督・脚本:三木聡
出演:山田涼介 土屋太鳳 濱田岳 眞島秀和 ふせえり
六角精児 矢柴俊博 有薗芳記 SUMIRE 笠兼三 MEGUMI
岩松了 田中要次 銀粉蝶 嶋田久作 笹野高史
オダギリジョー 西田敏行
(C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会