【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、アカデミー賞作品賞、主演男優賞など、合計6部門もノミネートされた話題作『ドリームプラン』(2022年2月23日公開)です。

大坂なおみ選手が尊敬しているトップのテニスプレイヤー、ビーナス・ウイリアムズとセリーナ・ウイリアムズを世界一の選手に育てたのは、テニスにはド素人の父親だった! という実話の映画化です。では物語からいってみましょう!

【物語】

ビーナス(サナイヤ・シドニーさん)とセリーナ(デミ・シングルトンさん)を最強のテニスプレイヤーに育てようとする父・リチャード(ウィル・スミスさん)。でも現実は、公営のテニスコートで、猛暑の日も雨の日もひたすら練習する毎日。2人にとって、有名クラブに所属することは遠い夢でした。

でもリチャードは2人をトップ選手にする自信がありました。彼にはビーナスとセリーナのための「ドリームプラン」があったから。その計画通りにコトが進めば、才能溢れる姉妹は、必ずスターになるはず! しかし、成功はそう簡単に掴むことはできませんでした……。

【強烈なステージパパ、リチャード!】

お父さんが才能溢れる娘2人を成功へと導く物語と聞くと、「なんて美しい!」と思うでしょう。たしかに、リチャードの娘たちへの愛はピュアで美しいです。でも、彼自身はかなり破天荒で強烈な人物。なので、ちょっとヤバイ人……と思ってしまうほど。

地元でテニスの練習をしていても成功はできないと考え、彼は有名選手を育てたコーチに娘を「指導してほしい!」と売り込んだり、コーチ所属のクラブに電話をかけ続けたりすることはしょっちゅう。実際に姉妹を連れてクラブに出かけ、有名コーチを捕まえて、相手の都合を無視して「いますぐ娘のテニスを見てくれ!」と押して、押して、押しまくります!

コーチは根負けしてビーナスとセリーナのプレイを見るのですが、やはり有名コーチにはすぐわかるんですね、姉妹が才能に溢れたプレイヤーだということが。それでも、そこからトントン拍子に行かないところが、このサクセスストーリーの面白さです。

【ビーナスのチャンスをつぶすリチャード!?】

セリーナよりも早く才能の芽が出たビーナスは、有名コーチのもとで指導を受けることになりますが、練習ばかりの代わり映えのしない日々。彼女は早く公式の試合に出場して実力を試したくて仕方がありません。コーチも公式戦でデビューさせたいのですが、リチャードに止められます。

ローティーンでプロデビューしてトップ選手になった選手はこれまでもいましたが、やがて目標を見失い、ドラッグに溺れたり、燃え尽き症候群になったりして消えていく……。リチャードは、娘に地に足を付けた人生を歩んでほしかったし、一流選手にふさわしい教養も身に付けさせたかった

だから「学業を優先しなさい!」と、周囲の反対を押し切って、公式の試合を先延ばしにしたのです。

彼は何でも口をはさんでくるので、コーチ陣から「あの狂人を説得するのは大変だ」と言われるほど変わり者。でも、父親としての考えは意外と真っ当で、セレブな生活や悪い誘惑に流されないようにと、娘を守るためでもあったのですね。

【家族の絆が強烈!】

とはいえ、リチャードにも弱みはあります。彼には強いコンプレックスがあり、彼の強気は弱点を隠すためでもありました。

それを見抜いているのが、妻のオラシーン(アーンジャニュー・エリスさん)。リチャードが姉妹を支配し過ぎると感じた彼女が、説得力のある言葉でリチャードを圧倒するシーンは感動的でした!

最強テニスプレイヤーの姉妹を育てたのは、信念を曲げない頑固な父と彼をコントロールしながら姉妹を見守る母。

そんな家族が築き上げた最強のアメリカンドリームを描いた映画、それが『ドリームプラン』

ウィル・スミスの名演とともに、ビーナスとセリーナのサクセスストーリーを大いに楽しんでください。

執筆:斎藤 香 (c)pouch

『ドリームプラン』
(2022年2月23日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:レイナルド・マーカス
出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン、トニー・ゴールドウィン、ジョン・バーンサル
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