2022年1月に発表された「2022年本屋大賞」のノミネート10作品。中でも注目を集めているのが、一穂ミチさんによる短編連作集『スモールワールズ』です。
現在、同書に収録されている短編「愛を適量」が映像化されYouTubeで公開中。
10分少々の映像ながらその世界観に、また “適量の愛を注げない不器用な父親” を演じる光石研さんの演技に、グっと引き込まれるのです。
【十数年ぶりに再会した我が子との物語】
「愛を適量」は、くたびれた中年教師の須崎慎悟(光石研さん)がひょんなことから十数年ぶりに再会した我が子としばしの共同生活を送るという物語。
「十数年ぶりに会った私の娘は、息子になっていました」
との慎悟の言葉通り、“娘” の佳澄(土村芳さん)は “息子” となって父の前に現れます。
最初は戸惑いもあった慎悟ですが、次第に親子の時間を取り戻したかのように見える2人。ある日、慎悟は佳澄に
「子どものとき、最後に会った日に話したこと覚えてる?」
と聞かれ、すっかり忘れていた大切な記憶を思い出すのです。
【光石研さんの演技に引き込まれる…!】
最後に会った日に、生理が来たことを父親に告げた佳澄。「女性として変化していく自身の体を受け入れられなくて怖い」と打ち明けたものの、父親から返ってきた答えは佳澄の期待とはまったくかけ離れたものでした。
慎悟は「適量がわからない」と言います。「塩を適量やら日本酒少々とか言われると、途端に嫌になる」と。
それは子どもに対しても同じ。自分なりに子どもを愛しているはずなのに、何をすれば、何を言えば相手の心に届くのか、その「適量」をどうしても汲むことができない……。
そんな父親の姿を演じる光石さんが、これまた胸を打たれるんです。
久しぶりの娘との会話にぎこちなさそうに見せるはにかんだ笑顔、娘が打ち明けた秘密に思わず動揺してごまかしてしまう様子。
こうした演技が本当に自然で、短い映像ながらふたりのこれまでの関係性が手にとるように伝わってきてホロリとさせられます。
【2022年本屋大賞ノミネート作品『スモールワールズ』】
映像は慎悟が真っ暗な部屋で回想する場面で終わりますが、小説では2人のその後のやりとりまで描かれています。
慎悟は佳澄との空白の十数年を取り戻すことができたのか……。
他にも珠玉の短編がそろう『スモールワールズ』。気になる方はぜひ本も読んでみてください!
参照元:YouTube、「スモールワールズ」公式サイト、プレスリリース、本屋大賞 公式サイト
執筆:鷺ノ宮やよい (c)Pouch
▼『スモールワールズ』プロモ映像。「愛を適量」の題字は光石研さんによるもの!
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