【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、長谷川博己さんと綾瀬はるかさんの共演作『はい、泳げません』(2022年6月10日公開)。高橋秀実のノンフィクション「はい、泳げません」をベースにした作品です。長谷川博己さんと綾瀬はるかさんは、大河ドラマ「八重の桜」(2013年 / NHK)以来の共演で、本作では、カナヅチの哲学者(長谷川さん)と水泳コーチ(綾瀬さん)を演じます。

では物語からいってみましょう!

【物語】

大学で哲学を教えている小鳥遊雄司(たかなし / 長谷川博己さん)は、気鋭の哲学者として著書も好評、学生たちにも人気があり、充実した日々を送っている……ように見えました。

しかし、実は「水が怖い」「泳げない」という悩みを抱えていたのです。そんな彼が、大学構内で見かけたスイミングクラブのポスターを見て、一発奮起。クラブに足を運び、水泳コーチの薄原静香(綾瀬はるか)の指導を受けることになります。

【意外性のある人生再生ストーリー】

最初は「カナヅチの哲学者が、水嫌いを克服する物語」と聞いて、てっきりコメディ映画だと思っていたら、観てビックリ。これが違ったんです!

もちろんコミカルなシーンもあります。スイミングクラブで小鳥遊の仲間になる明るく豪快なオバチャンたちが言いたい放題なので、小鳥遊がタジタジ。そんな姿は微笑ましく、クスクス笑ってしまいます。

でも、そこから主人公の過去が明らかになっていき、乗り越えようと必死になる姿は、胸に迫るものが。と、同時に、彼の人生を前へと導いてくれる「水泳」という競技の奥深さもジンジンと感じさせ、いろいろ考えさせられる作品なのです。

【水恐怖症の理由が明かされるとき】

小鳥遊は、幼い頃、親戚のおじさんに漁船から海へ放り込まれてから、水嫌いになったという設定ですが、実はその後にそれよりもっと、悲痛な経験をしており、その一件が、彼の人生に大きく影を落としています。

小鳥遊はバツイチで元妻(麻生久美子)とは別れても良好な関係を築いていますが、水の悲劇は彼女も関係していること。ネタバレになるのでこの先は映画を見ていただきたいのですが、小鳥遊がプールでジタバタと悪戦苦闘しつつも、必死なのは、悲劇を心に閉じ込めたまま、人生を進めてはいけないと思ったからかなと思いました。

【小鳥遊の人生を前向きに変えてくれる水泳コーチ】

そして水中でジタバタしている小鳥遊を導くのが水泳コーチの静香先生。「必ず泳げるようにします!」と自信満々で宣言する静香先生は、とても頼もしい。ダメ出しの言葉も温かいし、何より、水泳をマスターすることに全力というより、水の中の素晴らしさ、開放感を伝えてくれる存在というのがいい。私も静香先生に水泳を習いたいと思っちゃいましたよ。

【長谷川&綾瀬が役にピッタリ!】

俳優陣では、やはり主演の長谷川博己さんと綾瀬はるかさんが、役にピーッタリで良かったです。それぞれ、悲劇を抱えた哲学者と、熱い心を持った水泳コーチの役を、役の芯をガッチリ掴んだ演技で、すごく魅力的に演じられていました。

だからシリアスなシーンでもすんなり登場人物の気持ちに寄り添って見ていられましたし、後半の水泳シーンなどすごく美しかったです。この映画の見どころは、やはり長谷川博己と綾瀬はるか。これは間違いありません!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2022「はい、泳げません」製作委員会

『はい、泳げません』(2022年6月10日より全国ロードショー)
監督・脚本:渡辺謙作
原作:高橋秀実「はい、泳げません」(新潮文庫刊)
配給:東京テアトル、リトルモア
出演:長谷川博己、綾瀬はるか、麻生久美子、阿部純子、小林薫、大森立嗣、伊佐山ひろ子、広岡由里子、占部房子、上原奈美
©2022「はい、泳げません」製作委員会