【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、世にも恐ろしい高級レストランを舞台にしたスリラー『ザ・メニュー』(2022年11月18日公開)です。カリスマシェフの正体は、料理で人を追い込んでいくモンスター!?

では、物語から。

【物語】

太平洋沖の孤島のレストラン「ホーソン」は世界的なカリスマシェフ、スロヴィク(レイフ・ファインズさん)の店で、予約が最も取れないレストランで有名。

有名な料理評論家や映画スター、裕福なカップルなど、世界の高級料理を味わってきた食通ばかりが招待されている中、グルメマニアのテイラー(ニコラス・ホルトさん)もついに招待されて夢心地。彼はマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイさん)を連れてレストランへやって来ます。

席についた面々は、興奮を隠しきれません。しかし、スローヴィクが演出する恐怖はコース料理がサーブされたときから始まっていたのです。

【美しいレストラン、美味しい料理のはずが…】

結論から申しますと、怖かった!

まず島のレストランに到着したときに迎えてくれた給仕長のエルサ(ホン・チャウさん)は、目が笑っていない不気味な存在。

彼女に案内されレストランに入ると、そこは窓も大きく眺めも良く、洗練されたモダンな空間が広がります。オープンキッチンではスタッフたちが料理の盛り付けをしているのですが、全員が整列して同じ動きをしている姿はどこか怖い

狂気のシェフの繰り出す恐怖はお料理だけでなく、スタッフも怖さを演出するアイテムになっているのです。

そして、席についたゲストたちに前菜がサーブされるとスローヴィクは「食べないで味わってほしい」と奇妙なことを言い出すのです。そこから不穏な空気が……。

【コース料理と共に恐怖度がアップ!】

前菜のあとコース料理が続くのですが、その料理の内容が恐怖の演出になっています。

詳しくは「映画を観て!」としか言えないのですが、たとえば食べ物じゃないものもありますし、ゲストに料理の演出をさせるものも……。

「そんなレストラン、出て行けばいいじゃないか」と思うかもしれませんが、スタッフが出入り口見張っていますし、何より周りが海に囲まれた孤島のレストランのため、船がないと逃げることができない。

つまり、スローヴィクは最初からゲストをここに閉じ込めて恐怖を味合わせようと綿密な計画を立てていたというわけです。

【招かざる客マーゴの強み】

スローヴィクの仕掛けたワナに客はこのまま餌食になっていくのかというと、ひとり立ち向かうゲストがいました。それはグルメマニア、テイラーの連れであるマーゴです。

実は彼女、本来の招待客ではなく代役だったのです。招待客ではないと知るや、スローヴィクは彼女を問題視しますが、来てしまったものは仕方がない。ほかの客と同等に扱います。

しかし、マーゴはグルメではないので、最初からこのレストランの雰囲気に拒否反応を覚えます。

ほかの客が、前菜や2皿目の奇妙な演出に対して「きっと意味があるはず」と納得していても「なにこれ、馬鹿にしてんの?」という強気の態度。

恐怖が加速していく中、パニックになるゲストと違いマーゴは冷静に逃げる方法を考え、そしてスローヴィクがなぜこんなことをしたのか、その理由を探っていくのです。

【社会風刺も含んだレストランスリラー】

後半に向けて、スリルが加速していくのでハラハラしっぱなしでしたし、社会風刺も含まれていて職場におけるパワハラモラハラ、巷に溢れるレストラン評価への警鐘など見応え十分!

俳優陣では、狂気のシェフを演じたレイフ・ファインズはベストなキャスティングでした。キレキレの狂人ぶり!

立ち向かっていくマーゴを演じたアニャ・テイラー=ジョイは、いまハリウッドで1番勢いに乗っている若手女優で本作でも大活躍しています。

ちなみに高級料理を期待すると痛い目に合うのですが、ある事情でちょこっと出てくるチーズバーガーだけは美味しそうでしたよ……!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2022 20th Century Studios. All rights reserved.

■今回紹介した作品

『ザ・メニュー』
(2022年11月18日より全国ロードショー)
監督:マーク・マイロッド 「メディア王〜華麗なる一族〜」(TVシリーズ)
製作:アダム・マッケイ『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
出演:レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト、ホン・チャウ、ジャネット・マクティア、ジョン・レグイザモ ほか