【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、阿部サダヲ主演映画『シャイロックの子供たち』(2023年2月17日公開)。池井戸潤さんの原作をベースにしたオリジナルストーリーで、演出は、同じく池井戸潤原作の映画化『空飛ぶタイヤ』(2018年 / 主演:長瀬智也)の本木克英監督。

本作も大いに期待して試写に行ってきたのですが、面白かったです! では物語から。

【物語】

東京第一銀行の支店で、多額の現金が紛失する事件が発生。営業課の課長代理である西木(阿部サダヲさん)は、同じ部署の部下・北川(上戸彩さん)、お客様係二課の田端(玉森裕太さん)と共に真相を探ることに。

そこから見えてきたのは、銀行内部の闇だったのです。

【銀行で起こるパワハラ&モラハラ】

池井戸潤原作小説はドラマや映画界で大人気。2022年も竹内涼真さんと横浜流星さん主演の映画『アキラとあきら』が映画化され、好評を博しました。

本作では事件の真相を追いかけながらも、銀行内のヒエラルキーや契約ノルマの恐怖が描かれ、仕事で結果を残していくことの難しさやパワハラ&モラハラ上司の厄介さなども描いています。

会社に勤めている人はちょっと共感するところもあるのでは。そんな会社のリアルと並行して事件の真相をめぐるミステリーが展開していくのです。

【お金が人間を変えてしまう怖さ】

この映画の面白さは、お金が人を変えてしまう怖さを事件とともに描いていることです。詳しくは映画を観ていただきたいのですが、現金紛失事件に関与したある人物は「謝礼」として大金を受け取ってしまったがために、後に大きな事件に巻き込まれていきます。

本来は手にしてはいけないはずのお金を手にしてしまったので、その人物は犯人から厄介な仕事を押し付けられてしまう……。

ヤバいことやっているとわかっているのに、逃れられなくなっていく……見ているこちらがドキドキしちゃいました。

犯罪に巻き込まれていくプロセスを見るようで目が釘付けになりました。お金がないと生きていけないけど、お金に滅ぼされる人生もある。それがわかっていても騙されてしまうなんて、人間って弱いもんだなとも思いましたね。

【池井戸原作のミステリーでも阿部サダヲらしさ炸裂】

また本作は俳優陣も役にピタリとハマっていて、お芝居を見る楽しみもあります。

主演の阿部サダヲさんが演じる西木は、明るくて話好きで人のいい銀行員。ちょっと珍しいタイプだと思うのですが、こういう弾けた感じの人がいてもいいかも! と思わせるところはさすがです。

モラハラやパワハラを描いてもしんどい感じにならないのは、主役が阿部さんだったらかもしれません。

また阿部さんと一緒に事件解決に取り組む銀行員は上戸彩さんと玉森裕太さん。

玉森さんの役は強烈な個性はないものの、誠実で真面目な好青年! 玉森さんが映画に出演するのは、2019年の『パラレルワールド・ラブストーリー』以来なので、彼の姿をスクリーンで見られるのは眼福でしょう!

【二転三転する真相!】

「これが真相か」と思ったら、状況は二転三転していき、騙したり、騙されたり最後まで飽きさせない演出はさすが本木監督。同監督作品『空飛ぶタイヤ』も面白かったので、本木監督と池井戸潤原作小説は相性がいいのかもしれません。

ドラマも映画も私的に安心安定の銘柄とでもいいましょうか、池井戸作品はハズレがないんですよねえ。本作も最初から最後まで楽しませていただきました。おすすめです!

執筆:斎藤 香(c)pouch
Photo:©︎2023年映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

シャイロックの子供たち』(2023年2月17日より、全国ロードショー)
原作:池井戸潤『シャイロックの子供たち』(文春文庫)
監督:本木克英
出演:阿部サダヲ、上戸彩、玉森裕太、柳葉敏郎、杉本哲太、佐藤隆太、柄本明、橋爪功、佐々木蔵之介 ほか