信仰あらば恐れなし…？荻上直子監督『波紋』は新興宗教にすがる主婦の行き着く先を描いた問題作です！

【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは荻上直子監督の最新作『波紋』（2023年5月26日公開）です。昨年も『川っぺりムコリッタ』という傑作をリリースした荻上監督ですが、今回はブラックユーモアが炸裂する作品に。新興宗教にのめり込んだ主婦を巻き込んでいく“波紋”とは？

では、物語からいっていましょう。

須藤依子（筒井真理子さん）は専業主婦として家庭を支え、義理の父を介護しながら、夫（光石研さん）と息子（磯村勇斗さん）と暮らしてきました。しかし、東日本大震災にショックを受けた夫が突然失踪。

彼女はその後、“緑命会” という新興宗教にのめり込み、祈りを欠かさない生活をしていました。

そんなある日、10年以上音信不通だった夫が帰宅したのです！

私はいつも新興宗教について「なぜだろう」と思うことがありました。

もちろん何を信じるのかは自由ですが、高額のお布施をする行為がわからなくて「なんでそこまで？」と。でも依子を見て、少しわかったような。

家庭を支える専業主婦として生きることに疑問を持たなかった依子の日々が、夫の失踪で崩れてしまう。やがて義理の父が亡くなり、息子も家を出たあと、家族に尽くすことが人生だった依子は、拠り所をなくしてしまう……。

そんな彼女が求めた “心の拠り所” が新興宗教だったのです。

家の中は水の力をあがめる新興宗教「緑命会」の祭壇に “緑命水” なる水が祀られており、その緑命水の施設では「切磋琢磨いたしましょう」と謎の踊りをみんなで輪になって踊っています。

それでも彼女が幸せならばいいんですが、「あなただけ特別よ」と高額の商品を買わされている姿を見ていると、間違っているんじゃないかと思っちゃうんですよね。やっぱり騙されているんじゃない？と。

そんな中、10年以上音信不通だった夫が帰宅。

「なに今さら帰ってきてんの!?」と思いながら見ていると、なんと家族を捨てた夫を依子は家に入れちゃうんですよ！　それどころか、ご飯も作ってあげるし、寝床も与えて……。

もちろんイヤイヤですが、依子は怒りと不満で爆発しそうな気持ちを信仰心でグッと抑えているように見えました。

その後、急に帰ってきた夫から「がんになったから治療代を支援してくれ」と言われたり、息子が聴覚障害のある恋人を連れてきて、突然「結婚するんだ」と言ってきたり……予測不可能なことが次から次へと起こります。

少しは落ち着いたはずの依子の生活に “波紋” が広がっていき、その度に彼女の心には負の感情が渦巻く。

そこから、ますます宗教にすがろうとするのですが、彼女のピンチを救ったのは信仰ではなく人なんですね。

この映画の登場人物は、変わっていたり困った人たちばかり。そんな中でも信じられる人、分かり合える人はいるもので、依子の気持ちを救ってくれるのは家族ではなく、彼女の周りにいる人なのです。

これ以上は映画を観ていただきたいのですが、依子は信じていた家族に裏切られ、それでも何かを信じたくて、宗教にハマってしまった。

帰ってきた家族にイラっとするたびに緑命水を頭からシューっとスプレーして落ち着こうとする依子を見て「そんなんじゃ解決しないって！」と思いつつも、彼女も必死に生きているんだな〜とも思いました。

そして、この映画は見る人で感じ方が違うかもしれません。依子を見ながら「自分だったら…」と考えるかもしれないし、依子の夫や息子の視点から観るかもしれません。

ちなみに俳優陣はみんな素晴らしいです。荻上監督の映画は芝居が上手い人しか出てこないので、映画の世界にバッチリ没入できますよ！

観終わったあと、誰かと話したくなる映画『波紋』。ぜひ劇場でご覧ください。

『波紋』
（2023年5月26日TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開）
監督・脚本：荻上直子
配給：ショウゲート
出演：筒井真理子、光石研、磯村勇斗、安藤玉恵、江口のりこ、平岩紙、津田絵理奈、花王おさむ　柄本明、木野花、キムラ緑子

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