【映画ライター斎藤香がオススメするNetflixのイチオシ映画】

LGBTのコミュニティや文化への理解を深めるプライド月間ということで、今週ピックアップするのは生田斗真の主演映画『彼らが本気で編むときは、』です。

生田さんがトランスジェンダーのリンコさんを熱演して話題になった作品で、演出は『かもめ食堂』などの荻上直子監督です。

【物語】

トランスジェンダーのリンコ(生田斗真)はマキオ(桐谷健太)と仲良く暮らしていたところに、マキオの姪で小学生のトモ(柿原りんか)がやってきました。母親のひろみ(ミムラ)に育児放棄され、ひとりぼっちになってしまったトモ。そんな彼女を受け入れ、3人暮らしが始まります。

最初はリンコに対して引き気味だったトモも、その優しさに触れて仲良くなっていきます。リンコの中にもトモへの母性が目覚めていきますが、ひろみがトモを連れ戻しに来るのです。

【生田斗真の渾身の演技に大感動】

2017年に公開された作品ですが、改めて観て、俳優の凄さに恐れ入ったというか、生田斗真には本当に驚かされました! 初登場シーンから声、佇まい、表情など、とても自然に女性として存在していたからです。

リンコがドラッグクイーンのような見た目ならば、まだ華美な衣装やメイクなどが助けになるとは思うのですが、フツーの女性、それも「ほんわか癒し系女子」として映画の中で存在しなければいけないので、イケメンとはいえ中性的なタイプではない生田さんにとっては、かなり大変な役作りだったと思います。

【家族だから仲良しじゃない】

生田さんが演じるリンコさんは、男子として育てられていたけど、中学生の時に自分は女の子であることに気づきます。彼女にとって幸運だったのは、母親(田中美佐子)に理解があり、息子が娘になることをすぐに受け入れたことです。

一方、トモは母親に「育児放棄」され、母親のひろみは過去、自分の母にかなり厳しく支配されてきました。マキオはトモに「親子でも人対人なんだよ。どうしても気が合わない関係もある」と語ります。

家族だから絶対大丈夫な存在じゃない。家族よりも自分を大切にしてくれたり、守ってくれたりする人もいる。

トモにとってリンコはだんだんそういう存在になっていくんですね。リンコとトモが仲良くなっていく過程はとても微笑ましかったし、リンコがやさしいのは、母親の愛情をたっぷりあびて育ったから。愛の注ぎ方がわかっているんだな~と思いました。

【セクシャル・マイノリティの普通の人生】

映画を観ればわかるのですが、荻上監督はLGBTに対する偏見をなくそうと声高に訴えているわけではありません。トランスジェンダーの女性であっても社会人として働き、恋人と生活を共にすることは、ごく普通のこと。

しかし、日本では海外以上にトランスジェンダーは特別な目で見られがち。映画ではリンコさんに対する風当たりが強いシーンもありますが、この映画は「世の中にはいろんな人がいる。お互いに理解を深めながら、気が合う人と幸せに生きていこうよ」と語りかけているようです。

ダイバーシティという言葉が広まる一方で、まだまだみんなが多様性を受け入れているとはいいがたい今、まさに観るべき映画であり、リンコさんやマキオの寛容さには学びべき点がたくさんあります。

新型コロナ感染症や差別問題がクローズアップされるなか『彼らが本気で編むときは、』を観ると、考えたり、ほっこりしたり、思いやりの心を思い出せるのではないでしょうか。

執筆:斎藤 香(c)Pouch

彼らが本気で編むときは、
監督・脚本:荻上直子
出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、入江海翔、りりぃ、田中美佐子ほか
発売中/DVD/税抜4,900円+税 Blu-ray税抜5,800円+税/株式会社ジェイ・ストーム
レンタル DVD /株式会社ジェイ・ストーム
(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会