【映画ライター斎藤香がオススメするNetflixのイチオシ映画】
LGBTのコミュニティや文化への理解を深めるプライド月間ということで、今週はNetflixで配信されているドキュメンタリー映画『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』をピックアップしました。

実在したドラッグクイーンが死体で発見され、警察は自殺と公表したけれど、本当に自殺だったのか? マーシャの人生を紐解きながら真相に迫っていく作品です。

【物語】

マーシャ・P・ジョンソンは、トランスジェンダーの権利に声を上げたドラッグクイーンで、マーシャがいなかったらLGBT運動はなかったかもしれないと言われるほどの伝説の人物。そんな彼女が1992年に水死しました。警察は「自殺」と断定しますが、彼女の周囲の人物は決して信じません。

没後25年経ち、LGBT活動家であるトランスジェンダーのビクトリア・クルスがマーシャをよく知る人物や亡くなった日のマーシャを知っている人物などに会い、マーシャの死の真相を突き止めようと行動を開始するのです。

#プライド月間

【優しい微笑みのマーシャ・P・ジョンソン】

本作はビクトリア・クルスがマーシャの死の真相を調査する姿を追いかけながら、マーシャの人物像と彼女が生きた時代のトランスジェンダー差別やそれに対抗する活動の歴史も描いています。

マーシャは活動の中心人物で、仲間内の信頼は厚く、誰も彼女のことを悪く言う人はいません。それは彼女がLGBTの有名な活動かだらからではなく、マーシャは差別撤廃の活動に加え、貧しく体を売り物にしなければ生きていけないトランスジェンダーを助けるため、親友のシルヴィア・リベラとともに「STARハウス」というシェルターも作ったりしていたからです。LGBT界のお母さん的な存在だったんですね。

【LGBTの中で差別されるトランスジェンダー】

そんな優しいマーシャの実話を描いた本作ですが、私がいちばん驚いたのは、トランスジェンダーがLGBTの人々の中で差別にあっていたことです。

てっきり団結して活動していると思っていたのですが、マーシャが生きていた時代は、プライドパレードでもトランスジェンダーはフラッグで姿を隠されたり、発言の機会を与えられなかったり、すさまじいブーイングを浴びているのです。 

どうやらトランスジェンダーは、世間の評判が悪い危険人物とみなされていたようです。その活動をスタートさせて、同性愛者の権利獲得のために奔走したのは誰だと思ってるの!と観ていて怒りが湧いてきました。

【マーシャの死の真相は明かされるのか?】

ビクトリアは実に粘り強くマーシャの死に対する調査を進めていきます。まるで謎解きミステリー映画のよう。「チンピラにからまれていた」「マーシャは何かにおびえていた」「マフィアが関連している」など、新事実は出てくるものの、25年前の事件ですから、なかなか他殺であるという確信的な証拠がつかめないんですね。

そしてついに後半、マーシャの遺体の状態についてビクリアは真相を知ることになるのですが……、ここから先はぜひ映画を観ていただきたいです。

いまだに差別による犯罪が起こる世の中、いつまたマーシャが生きていた時代に後戻りするかわかりません。だからこそ『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』のような作品で、差別に苦しむ人々の真実の声を聞くことを忘れてはならないと思います。

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

マーシャ・P・ジョンソンの生と死
監督:デヴィッド・フランス
出演:ビクトリア・クルス、マーシャ・P・ジョンソン、シルヴィア・リベラ

Netflix映画『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』独占配信中