【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、生田斗真さん主演映画『湯道』(2023年2月23日公開)です。本作は、華道、茶道と同じように「湯道」があってもいいのではないか、と小山薫堂さんが2015年に立ち上げた入浴文化をベースにした作品。
これが心も体もほっこりポカポカ温かくなる映画でよかったですよ〜。では、物語から。
【物語】
亡き父が遺した銭湯「まるきん温泉」に突然戻ってきた建築家の三浦史朗(生田斗真さん)。彼が戻ってきた理由は「まるきん温泉」をたたみ、跡地をマンションにすること。
この計画を弟・悟朗(濱田岳さん)に受け入れてもらおうとするのですが、勝手に家を出ていった兄の代わりに実家を継ぐことになった悟朗は、そんな兄に冷たくします……。
ある日、悟朗がアクシデントに巻き込まれ入院! 史朗は看板娘・いづみ(橋本環奈さん)に助言されたことをきっかけに、銭湯を仕方なく手伝うことになるのです。
【湯道の精神と家族ドラマが合体!?】
本作は舞台となる「まるきん温泉」を舞台にした家族ドラマの一面と、「湯道」という入浴文化を捉える一面があり、懐かしさの中に新しい世界観が垣間見られるすごくチャレンジングな作品です。
メインは「まるきん温泉」をめぐり、仲違いしていた兄弟の物語。存続が難しい実家の銭湯を売ってしまおうと思っている兄と守りたい弟。その間に入って仲裁役を務めるのが「まるきん温泉」の看板娘のいづみ(橋本環奈さん)です。
このいづみちゃんがとてもいいんですよ〜!
【橋本環奈のいづみちゃんが最高な理由】
というのも、いづみがいないと「まるきん温泉」は成り立たないのでは? と思うほどの仕事っぷりなんです。
のれんを出し、銭湯の脱衣所からお風呂場まで綺麗に整え、番台に座って常連さんを明るく迎える、という彼女の開店準備の素晴らしさ! 彼女がいるだけで、周囲が暖かい空気に包まれる……まさに温泉みたいな女の子・いづみ。
この役に橋本環奈さんがバッチリハマっています。彼女が魅力的なのは橋本さんのお芝居のおかげですし、個人的には “橋本環奈の代表作” と言えるのでは、思うほどです!
【永遠の男子・史朗と悟朗】
いっぽう、史朗と悟朗は意地の張り合いばかり。常連客はいるものの、新規のお客さんが少なく、たしかに「まるきん温泉」の存続は危ない状況です。
「マンションに建て替えよう」という気持ちもわからなくはない。
でも、この提案をする史朗も建築家として壁にぶつかっていて、銭湯をマンション化する仕事を請け負うことで人生の再スタートを切ろうとしているような。個人的には「ちょっとズルくない?」と。
そんな史朗がそれほど嫌なキャラクターに見えないのは、やはり生田斗真さんの力。彼の持つ陽気さと愛嬌が史朗を主役として輝かせているんだなと思いましたね。
そして弟・悟朗を演じる濱田岳さんは、自由人の兄が自分の道を歩むと決めたせいで、「まるきん温泉」を継がなくてはならなくなったことに腹を立てつつも、「まるきん温泉」の運営に真っ直ぐに取り組む真面目な次男。
史朗よりも銭湯の運営に向いているように見えたし、何よりお客さんのためにいいお湯を沸かしたいという情熱が素敵でした。
悟朗も濵田さんにピッタリの役で、この3人が本当に素晴らしかったですね。
【湯道の家元が伝授する入浴所作!】
本作は「まるきん温泉」のお話に加えて、「湯道」の家元(角野卓造さん)が入浴の所作を伝授する「湯道会館」のシーンもユニーク。
ここに通うのが、「まるきん温泉」の常連客でもある横山(小日向文世さん)で、彼が「湯道」の世界と「まるきん温泉」の橋渡し役を担っています。同じお風呂でも全く異なる世界観を描き「お風呂って意外と深い」と思わせてくれます。
この入浴の所作などに小山薫堂さんの「湯道」の精神が隠されているのかも!
シャワーでパパッと済ませちゃうことも多いですが、この映画を観たあとはゆっくりお風呂に入りたくなることでしょう。まだまだ寒い日もありますから、映画『湯道』を見たら湯船でゆっくり温まってください!
執筆:斎藤 香 (C)pouch
Photo:(C)2023 映画「湯道」製作委員会
『湯道』
(2023年2月23日より全国東宝系にてロードショー)
企画・脚本:小山薫堂(『おくりびと』)
監督:鈴木雅之(『HERO』シリーズ、『マスカレード』シリーズ)
音楽:佐藤直紀
出演:生田斗真、濱田岳、橋本環奈 ほか
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