【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

ピックアップするのはベルギー、フランス、オランダ合作映画『CLOSE/クロース』(2023年7月14日公開)です。第75回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した作品で、13歳の少年ふたりの友情の崩壊を描いています。

では、物語からいってみましょう。

【物語】

幼馴染のレオ(エデン・ダンブリンさん)とレミ(グスタフ・ドゥ・ワエルさん)はいつも一緒。花畑を走り回り、夜は枕を並べて寝て、いつも笑い合っていました。

同じ中学に入学したふたりは、いつもと同じようにじゃれあって遊んでいたら、クラスメイトから「付き合っているの?」と言われます。

レミは気にしませんでしたが、その言葉が頭から離れないレオ。

やがてレオはレミと距離を置き、新しい友達と遊ぶように。でもそんなレオの態度がレミを深く傷つけてしまうのです。

【変わりたいというレオの気持ち】

冒頭、レオとレミの時間が映し出されます。何をやっても楽しくて、笑い合って、本当に仲良し。

そんなふたりは中学に入学してもいつもと同じように常に一緒にいて、じゃれあっていたのですが、クラスメイトはその姿を見てニヤニヤしています。

KRIS DEWITTE


レオはそこで “他者から自分がどう見られているのか” を考えるように。ウワサされたくないし、変わってると思われたくない。「じゃあ、自分もみんなと同じように振る舞おう」と変えようと思ったのです。

【今までのままでいいというレミの気持ち】

レオは学校でよそよそしくなり、自分以外のクラスメイトと遊ぶようになったり……。それでも週末は一緒に遊べるので、レミはその時間を楽しみにしていました。

でも、いつもは同じベッドでじゃれながら寝ていたのに、一緒に寝ようとするとレオは嫌がるように。

クラスメイトに何を言われても、レミはレオと一緒に過ごす楽しい毎日を変えるつもりはありません。でもレオの態度が急変し理解できなくて、レミの寂しさは加速していくのです。

【すれ違う友情と思春期の難しさ】

大人目線で見ると「ふたりとも話し合おうよ!」と思うんですよ。何がこれまでと違うのか、どうしたいのかをお互いに気持ちを伝え合えばいいじゃない、と。

でも2人はまだ13歳で、大人への階段を一歩踏み出す時期。レオとレミはこれまで同じスピードで成長してきたけど、思春期を境に心の成長スピードに変化が現れたのかなと思いました。

周囲の目を意識し、自分の在り方を模索し始めたレオは社交性を身につけていきます。でもレミは「中学生になったからって変わる必要ないじゃん」と思っていたのか、レオとの世界を継続したい気持ちが強かった。

そんな2人は自分の心の変化をコントロールできないから、どうしていいのかわからない。だからレオはレミを避け、レミは孤独を募らせていくのです。

【美しさの中で描かれる残酷さ】

レオの実家は花の農家なので、花畑が象徴的に描かれおり映像がとてもキレイ。そんな美しい世界の中だからこそ、友情が崩れていく様は対照的にとても残酷で辛い……。

KRIS DEWITTE

とはいえ、本作は思春期の少年の友情と崩壊を描いた傑作であることは間違いありません。

誰もが経験したことがあるのではないかと思うし、レオの気持ちもレミの気持ちもわかるんですよ。友情ってもろい!だからこそ大切にしなければいけない、と思いました。

レオとレミを演じた少年ふたりもとても素晴らしいので、ぜひ観ていただきたいです!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022

『CLOSE クロース』
(2023年7月14日より全国公開)
監督:ルーカス・ドン
配給:クロックワークス
出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、エミリー・ドゥケンヌ